3 ジュースとケーキ
レイラは部屋でのんびり過ごす。メイドたちはいったんお休みさせて、自分で部屋を片付けた。こういう日はよくあって、メイドたちが疲れてしまわないように、たまにはと片付けをやっている。だが、皆レイラのために働きたくてうずうずしているようだ。
レイラは、いつもメイドにたくさん任せていることを申し訳なく思っている。なので、こういう日はしっかり片付けをしている。
「あ、未来も確認しておかないとね」
レイラは、ページをペラペラとめくる。未来は、いつも最後のページに書かれている。
「⋯⋯あれ?」
目をこすりながら何度も見直す。確かに同じ文字が書かれていた。
『レイラ、暗殺される』と。
「どっ、どういうこと?」
いつもは詳しく書いてあるのに、今日はその一文だけだった。暗殺される詳細までは教えてくれないものなのか、自力で回避しろという試練なのか。
どちらにせよ、レイラの未来を回避する方法は自分で考えなければならない。
その時、ドアを叩く音が聞こえた。
「レイラ姫様? もう入っていいですか? 私、やっぱり掃除したくてウズウズしてて〜」
(⋯⋯モカだ!)
「は、はいっ! ごめんね!」
レイラは、本をぱたんと閉じると、さっと隠して扉を開けた。
「姫様! クッキーを作ったんです! ナーラ先輩と食べましょう!」
「う、うん!」
クッキーのいい匂いにつられて、レイラは勢いよく頷いた。
三人でクッキーを食べながら、楽しく会話をする。その会話の最中で、ナーラが不思議そうに言った。
「掃除をするんじゃなかったの? モカ」
「クッキー食べたいんですよぉー」
モカは口をもぐもぐさせている。
家事の腕前は良いようで、焦げているところはないのに生焼けでもないクッキーを持ってきた。モカが一番食べている気がするのは目を瞑っておこう。
「ナーラ、モカ⋯⋯」
「何ですか?」
未来のことを言おうとして、やめた。
二人には未来のことを知られたくない。巻き込んでしまうかもしれない。
(これは、私一人で解決しないと⋯⋯!)
レイラは、静かにそう決意した。
「なんでもないの。クッキー食べよ?」
なるべく笑顔を作ってそう言うと、「おいしいですか?気に入りました?」とモカが笑顔になりながら聞いてくれた。
「う、うん!」
レイラはクッキーを口に運びながら、大きく頷いた。
レイラたちは庭に来ていた。
「あ! ちょうちょ!」
レイラが蝶を指さしながら笑顔になる。
「レイラ姫様に似合いそうな、綺麗な色のちょうちょですね」
「今度このちょうちょみたいな髪飾り作ってあげます!」
二人ともレイラに合わせて「ちょうちょ」といっているのが面白くて、レイラはくすくすと笑った。
「あそこの机でお菓子を食べるのよね?」
「そうですよ、レイラ姫様のお父様がお菓子を運んでくださるそうです」
「王様がですか!?」
驚くモカに、「そうです」とナーラが自慢げに笑った。
「王様はレイラ姫様を溺愛しておりますから」
(できあい……?って、なんだろう……)
レイラが首を傾げていると、モカが教えてくれた。
「溺愛というのはですね――」
教え終わると、ナーラは「私が教えようとしていたのに……」と呟いた。
「モカもナーラもありがとう! 二人とも優しくてだーいすき!」
レイラは、こういうことでも教えてくれる二人が大好きだった。
思わず二人に抱きつくと、二人とも再びノックアウトされたのだった。
いつの間にか暗殺の未来を忘れていた。忘れていること自体にも、レイラは気づけていなかった。
「お菓子まだかな……? 楽しみです!」
「もうそろそろみたいですね」
ナーラはさっきからお菓子の話題しか出してこないモカに呆れている。
「パパはいつも沢山のお菓子をくれるから、楽しみにしていてね!」
「やった! ナーラ先輩、楽しみですね!」
「そうですね、この国一美味しいとされていますから」
「そうなんですか!? 楽しみ〜」
(モカ、すごく楽しみにしてるみたい)
お菓子がきたら沢山食べさせてあげようと、レイラは思った。
「あまったら他のメイドにもたくさんあげてね!」
「もちろんです」
ナーラはニコッとしながら言った。
まず、ジュースが運ばれてきた。綺麗なグラスに注がれた、美味しそうなジュース。
「美味しそうー!」
(……あれ?)
いつも勉強しているレイラは、すぐに異変に気がついた。
(氷って…水にしずむっけ?)
氷がジュースに完全に沈んでいる。
不安に感じたレイラは、すぐに運んできた人に言った。
「……お水が飲みたくなっちゃった。水を持ってきてくれる?」
「は、はいっ! すぐに持ってきます!」
ジュースを運んできた男は、慌てて水を取りに行った。
「こちらが水です」
(やっぱり変……)
この水もそうだ。氷が沈み、浮く気配もない。
(これ……何か混ぜてある?)
レイラは、「ジュースはお菓子と一緒に飲まない?」と言い訳をしてお菓子が来るのを待った。
ジュースにも水にも氷が沈む。これは、何かが混ぜてある可能性がある。
(でも、問題はお菓子……)
お菓子は、うまく確かめられるか分からない。ジュースの事を言うことはできない。言ったら、運んできた人が関係ない人だったとしても、その人を巻き込んでしまうかもしれない。それは絶対に嫌だった。
「お待たせしました、お菓子でございます」
ケーキやフルーツが運ばれてくる。
モカが目を輝かせ、もう食べようとしている。
試すには、レイラが一番最初に食べるしかない――。
「いっ、いただきます!」
最悪、未来を回避できなくてもいいから、二人だけは守りたかった。
レイラは、ケーキを口に入れる。
すぐに変な味と感じる。レイラは涙目になった。
「……ごめんなさい、せっかく作ってくれたのに、残しちゃい、そう……」
スプーンがかちゃんと落ちる。二人の声が聞こえてくる。そんな中、レイラの意識は、静かに飲み込まれていった。
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