4 おにごっこ
「⋯⋯様! 姫様!」
声が聞こえる。
(あれ、この声⋯⋯)
「⋯⋯ナーラ?」
目をゆっくりと開けながら、レイラは言う。
「はい。レイラ姫様、大丈夫ですか?」
「私もいますよ、大丈夫ですか?」
ナーラとモカがレイラを囲む。不安そうな表情の二人に、レイラは弱々しく微笑んだ。
「だいじょうぶ。何があったんだっけ?」
「姫様が、ケーキを食べて倒れて⋯⋯」
ナーラがゆっくりと教えてくれる。
「そのケーキには、毒が入っていたようで⋯⋯」
レイラはハッとした。
(私、死んでない⋯⋯!)
「私、本当に本当に心配で⋯⋯!」
モカも涙目になりながら言う。
「私もです。モカと一緒に一生懸命看病しました。医者もたぶん百人は呼んだと思います」
(百人⋯⋯?)
レイラが戸惑う。流石に冗談だと思いたいが、ナーラならやりそうだった。
「いや、千人ですよ!」
モカもそれに乗るように言う。ナーラは真面目な顔で訂正した。
「医者は千人もいませんよ、モカ」
「だったら百人もいないですよ!」
二人の会話が面白くて、思わずくすくすと笑った。
「でも、姫様が無事で良かったです!」
「同感です」
二人がうんうんと頷いている。
「モカはクッキーを焼いて待っていましたよね」
「ナーラ先輩は部屋をめちゃくちゃ掃除して待っていましたよねっ!」
(二人は前よりも少し仲良くなったみたいね)
レイラがふふっと笑っていると、二人の目がうるうるしてきた。
「⋯⋯ナーラ先輩、レイラ姫様可愛すぎでは?」
「⋯⋯可愛すぎてもうこれだけでずっと生きていけそうですね」
(二人でお話してる⋯⋯なんの話をしてるのかな?)
レイラは首を傾げた。そんな仕草に、二人の目はどんどん潤んでいくのだった。
しばらくして、レイラは庭を駆け回れるくらいには回復した。
「レイラ姫様、元気になりましたねー」
「まだまだ心配なところはありますが、食事も普段通りに戻して良さそうですね」
二人でレイラを見ながら笑っていると、レイラがたたたーっとこちらに向かって駆けてきた。
「モカ、ナーラ、遊ぼ!」
そんなレイラをみて二人はぱちくりとまばたきをし、そして、顔を見合わせて、ふふっと笑った。
そんな中、レイラは、今朝のことを思い出していた。
「あ、今日の未来も見ないと」
レイラは朝はやく起きて、そんなふうに思った。未来を見るのはいつもの習慣だ。
「今日は⋯⋯」
ページをペラペラとめくる。そこに書いてあった文字を見て、思わず瞬きをした。
「えっ⋯⋯」
ありえないと思っていた。「暗殺される未来」はもう回避したのだから。
そのページに書かれていたのは、「レイラ、暗殺される」――前書かれていたものと、同じ未来だった。
(いつ起こるかわからないから、二人のそばにいないと⋯⋯あれ?待って⋯⋯)
この間の毒の事件も、結局理由がわかっていない。だが、「暗殺される」というのがあのことだったのは確かだろう。
(あの犯人も探しているところみたいだし⋯⋯また暗殺を仕掛けてくるとか⋯⋯ないよね?)
レイラはぶるりと震えながら、ナーラたちと会話を始めた。
「何をして遊びますか?」
「うーん⋯⋯おにごっこはどうかな?」
レイラが人差し指を立てて提案する。
「いいですね!」
「モカ、あまりはしゃぎすぎると騒ぎになりますよ」
ぴょんぴょん跳ねるモカに対し、ナーラは落ち着いていた。
「久しぶりだからね、おにごっこ!」
「え、前にもやったことがあるんですか? まさかナーラ先輩と?」
ずるい、と膨れるモカに、ナーラが訂正する。
「いえ、そのときは⋯⋯」
「レイラちゃーんっ!!」
ナーラが言いかけると、大きな声が聞こえる。そして、やたらと豪華な服を着た男が走ってきた。
レイラと同じ、茶色っぽい髪色。レイラの父である王だった。
「お、王様⋯⋯!」
「パパ!」
レイラが、思いっきり走って王に飛びついた。
「何してるんだ?」
「おにごっこするところだよ!」
「そうか、昔パパとやったもんな」
王が目を細めた。
楽しく会話をする二人を眺めながら、モカとナーラはひそひそと話し始めた。
「王様がデレデレしてるのちょっと怖いです⋯⋯違和感ありまくり⋯⋯」
「そうですよね、姫様が生き生きしているのはいいのですが、そこが困りますよね⋯⋯」
モカとナーラは共感しながら、うんうんと頷く。
すると、レイラがすっとこっちを向いた。
「ねぇ、おにごっこパパも混ぜていい?」
「えぇっと⋯⋯良いのですが⋯⋯」
「⋯⋯タッチしたら処刑とかありませんよね⋯⋯」
「無いから大丈夫だ」
聞こえていたようで、王が即答する。
王はそこまで厳しいわけではないようだ。
「じゃあやりましょう!」
「モカ!?」
笑顔で言うモカにナーラが驚く。王と鬼ごっこをする時点で、ナーラは気まずいらしい。
レイラの方を向くと、レイラもふふっと笑って言った。
「そうだよ、やろう? あ、でもどうしても嫌なら⋯⋯」
「いえ、やりましょう!!」
ナーラはレイラには弱かった。
即答するナーラを見て、「ナーラ先輩弱いー」とモカが呟く。ナーラは、心のなかでつぶやいた。
(モカもでしょう⋯⋯? 初めてあったときからメロメロだったくせに⋯⋯)
皆できゃっきゃと遊びながら、レイラは「あれ?」と思った。
(そう言えば、私の暗殺される未来って⋯⋯?)
お読みいただきありがとうございます。




