2 モカの未来
「レイラ姫様? どうしたんですか?」
その言葉を聞いて、レイラはやっと我に返った。
「あっ⋯⋯なんでもないの。一緒に行こうかなって思って⋯⋯」
「あ、そうなんですね? 行きましょ行きましょ!」
「ティモカ、髪が乱れていますよ」
「ここをこうして⋯⋯」と髪を優しく触って整える。整えてもらいながら、モカはレイラの方を見る。
「姫様ー、何なら一緒に部屋の中まで――」
「ティモカ、だめですよ」
「えー、ナーラ先輩ひどいです! というか、モカと呼んでくださいよー」
ぷくーっと頬を膨らましながら、モカが文句を言う。その会話を聞いているうちに楽しくなってきたが、すぐに未来のことを思い出す。
(階段に行かせなければ良いのかな? でも階段を通らないと部屋に行けなくてモカが困っちゃうよね⋯⋯)
「じゃあ行きますよ」
はっと顔を上げる。目の前ではナーラが不思議そうにレイラを見つめていた。
「う、うんっ! 分かった!」
「待ってくださいーっ! ナーラ先輩ー!」
走りながら階段の方向に向かっていく。レイラはどくどくと鳴る鼓動を抑えるように、胸に手を当てた。
(大丈夫。きっと大丈夫⋯⋯!)
心のなかでつぶやきながら、廊下を思いっきり駆けた。
廊下は長くて、階段までもう少しある。レイラとモカはナーラに追いついたので、三人で並んで歩いていた。
「私の住んでいたところは花がたくさん咲いているところで、とっても綺麗なんですよー」
「⋯⋯」
不安な気持ちを隠しきれないレイラは、無言になってしまった。ナーラがそんなレイラの顔を覗きこむ。
「大丈夫ですか、姫様?」
「う、うん⋯⋯」
(どうしよう⋯⋯)
心配しながら前を向く。もう少しで階段だった。
(私たちがついていったことで、もう未来が変わっていると良いんだけど⋯⋯)
不安になりながら歩く廊下。窓から差し込む光が、木に遮られてふっと消えた。
長い廊下も、話しながらだとあっという間だ。
三人は少しずつ階段に近づいていた。
「私の部屋どんな場所なんだろう⋯⋯楽しみです!」
「ただの部屋ですよ? あっ、でも、レイラ姫様がきれいなクッションを用意してくださっているんです」
「えーっ! めちゃくちゃ楽しみですっ!」
言ったとおり、目をキラキラさせながらモカが笑う。
「ありがとうございます、姫様⋯⋯姫様?」
「⋯⋯」
モカがレイラの顔を見つめる。
「レイラ姫様、大丈夫ですか?」
「うん⋯⋯」
(どうしよう、モカにも心配かけちゃった⋯⋯でもモカがこの階段で転んだら、と思うと⋯⋯)
「ならいいのですが⋯⋯」
ナーラも心配そうにしている。
暗い雰囲気をなんとかしようと、モカが話題を変えた。
「き、きれいな階段ですね! ピッカピカ!」
(たしかにピッカピカ⋯⋯って、あれ?)
いつも綺麗だが、前よりもピカピカしているような気がした。
(もしかして⋯⋯誰かが掃除の時に水をこぼしたのかな? だから転ぶ未来が?)
嫌な予感がした。
モカは、それに気づかず階段に足を乗せようとする。モカとナーラは身体の大きさは同じくらいだから、レイラが協力しても受け止めるのは無理だろう。むしろ、受け止めようとした側も滑ってしまうかもしれない。
モカを止めることは出来ない。止めようとしたら、未来予知のことに気づかれてしまうかもしれない。そこまでモカに背負わせたくなかった。
レイラはちらっとナーラを見て、はっとした。
ナーラはもう階段に一歩を踏み出している。なのに転んでいない。不思議に思いながら、よく見てみた。
ナーラが履いている靴は、前に雪遊びをしたときのもの。間違えて履いたのだろうが、それなら滑らないだろう。
だったら――
「わ、私が先におりるね!」
レイラは、モカより先に階段に足を乗せる。モカは階段に乗せようとした足を思わずすっと引っ込めた。
レイラの体は予想通り滑る。
そのまま、体が宙に浮き、階段から真っ逆さまに転びそうになるが――。
「レイラ姫様、危ないです!」
ナーラはさっとレイラを受け止めた。
「ナーラ、ありがとう⋯⋯階段に水がこぼれていたみたい」
「本当ですね⋯⋯」
モカは、「ナーラ先輩かっこいいです!」と目をキラキラさせている。
「では、非常階段から降りましょうか」
ナーラは、「ここ、拭いといてくれる?」と近くにいたメイドに頼むと、非常階段に案内してくれた。
(ナーラ、かっこいいなぁ!)
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