第8話 本物の修復官を名乗る義妹
三日後、ミレイユは王都の任命書を持って北辺へやってきた。
「お義姉様の補佐として参りましたの。王立文書院から、正式に」
白薔薇の香りをひき、二十八歳の義妹は工房の中央に立つ。後ろには契約局の若い役人が二人。どう見ても補佐ではなく、私を追い出す準備だ。
「クラウディアは私の工房付き主任だ」
ルーカスが先に言った。声は低いが、それだけで空気が張る。
ミレイユは困ったように笑ってみせた。
「でも王都では、文書修復はもっと華やかに行いますのよ。汚れを落として、見た目を整えて、飾り罫も足して」
「それは修復ではなく化粧よ」
私が返すと、彼女はすぐ近くの村の封蝋付き譲渡証を手に取った。
「たとえばこういう古臭い蝋も、香油で柔らかくすれば」
「触らないで」
止めるより早く、彼女は封蝋へ油を落とした。鈍い光を保っていた印面が、一瞬でにじむ。エルザが悲鳴を飲み込んだ。
「……修復官なら、まず油を遠ざけるわ」
私は譲渡証を受け取り、被害を最小限に抑えるために冷却箱へ入れた。ミレイユは顔をこわばらせたが、すぐ笑みに戻る。
「失敗は誰にでもありますもの」
「ええ。でもあなたは、失敗する場所をよく知っている」
彼女の視線が一瞬、活版庫の奥へ走った。逆刷り帳をしまってある棚だ。
私はその動きを見逃さなかった。彼女は証拠の場所を知っている。つまり、この工房で何が使われたかも知っている。
白薔薇の香りが強くなる中、私は静かに決めた。
今夜、活版庫を洗うように探す。




