第6話 消えた税契約の原本
原本そのものは、やはり見つからなかった。
だが印刷台の下から、私は別のものを拾い上げた。活字の当たりを確認するために使う当て紙と、古い圧布だ。どちらも黒ずみ、捨てられた廃材に見える。けれど湿らせて光に透かすと、逆向きの文字がうっすら浮かんだ。
「逆刷り……」
私は息を殺し、筆で輪郭をなぞった。
第三条、冬季救恤倉庫の臨時検査を免除する。ただし、王都契約局ハルト印のあるものに限る。
「出ました」
ルーカスとヨハンが身を乗り出す。私は当て紙を机へ固定し、ゆっくり読み上げた。
「本来ないはずの免除条文です。しかも倉庫指定つき。これなら村へ渡るはずの金も物資も、検査なしで横流しできます」
エルザが口元を押さえた。
「そんな条文、正式契約にはありません」
「だから原本を抜いたんです」
私は圧布の端に残った繊維片をつまんだ。王立文書院特注紙の透かし。フェリクスが持ち出した原本を、ここで見本にした証拠だった。
ルーカスは当て紙を見つめたまま言う。
「王都だけの問題では済まないな」
「ええ。けれど、まだ足りません」
条文の影は取れた。けれど誰が運び、誰が受け取ったかまで示すには、輸送の記録がいる。
私は北辺港向けの出荷台帳を手に取った。
「紙束の流れを追います。印刷工房から港へ、港から王都へ。嘘は必ずどこかで重くなる」
ルーカスは短く頷いた。
「明日、港へ行く。馬車は用意しておく」
ようやく見えた一行の影は、思っていたよりずっと大きな不正の輪郭だった。




