第5話 綴じ糸が示す欠落頁
欠けていたのは二枚どころではなかった。
冬季救恤契約の束を一夜かけて調べると、六つの村の支払先一覧だけが不自然に抜かれていた。しかもどの綴りも、抜き取ったあとに南部製の細糸で仮綴じされている。北辺印刷工房が使う麻糸ではない。
「六村だけ配給倉庫が別名義になっています」
私が言うと、エルザが青ざめた。
「その名義、全部ハルト商会の関連倉庫です」
フェリクスの家だ。私は抜き取り痕へ光を当てた。紙の毛羽立ちの下に、薄く赤い印泥が残っている。本来は村長印が押される位置だった。
「誰かが支払先一覧を外し、商会倉庫へ差し替えた。原本さえ押さえてしまえば、複製も好きなように直せる」
ヨハンが奥歯を噛んだ。
「じゃあ、今年の救恤金は……」
「最初から村へ届く前提ではなかったのかもしれません」
ルーカスは机に拳を置いたが、怒鳴らなかった。代わりに低い声で問う。
「原本はどこへ消えた」
私は綴じ穴のずれと紙の癖を見比べた。抜かれた頁は、他の契約書へ紛れ込ませるには厚みが合わない。ならば、印刷前の別作業で使われた可能性が高い。
「工房内です。しかも、一度は印刷台の近くへ持ち込まれている」
ルーカスの目が細くなる。
「理由は」
「契約条文を刷り直すため。原本の一節を見ながら、活字を組み替えたんです」
紙を盗む者は多い。けれど本文をすり替える者は、紙だけでなく工程を知っている。
私は綴じ束を閉じた。
「次は印刷台周りを見せてください。きっと、消したかった文言の影が残っています」




