第38話 綴じ直した開校証
公開聴聞の翌日、私は工房の一番明るい席で開校証を綴じ直していた。
焼けた断片、修道院の包みから出た半分、学舎に残っていた金具の位置。全部を突き合わせると、欠けた行の流れがようやく一本につながる。
『本学舎の書庫および教本印刷費は、北辺紙工組合の寄進と水車権収益をもって守ること』
私はその文を読み上げ、そっと薄紙を重ねた。
「ずっとここに書いてあったのね」
イーダが隣で小さく呟く。
午後、綴じ直した開校証と水車権原本は、学舎の前で村人たちへ公開された。製紙場から届いた新しい紙で、ヨハンたちは正式版の教本も刷り始めている。
子どもたちが机に並んだ新しい本へ触れる姿を見て、胸の奥が静かに満ちていく。守れた。今回は、誰かの名誉だけではない。これから読む子どもたちの時間ごと。
ルーカスが私の隣に立った。
「疲れたか」
「少し。でも、いい疲れです」
「君が直した紙で、学校が続く」
その言葉に、私は開校証へ視線を落とす。修復官の仕事は、失ったものを戻すことだと思っていた。けれど今、直した紙は未来の方へ伸びている。
「次は守るだけじゃ足りませんね」
「何を作る」
私は迷わず答えた。
「誰でも原本を確かめられる場所です。学校も、役場も、工房も頼れる文書館を」
ルーカスは短く頷いた。
「作ろう」
水車の音と、子どもたちが新しい本を開く音が、同じ午後の空気に混ざっていた。




