表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/40

第36話 三十五歳の学監官

翌朝、工房へ王都の学監官が現れた。


 三十五歳のマーガレーテ・フェルト。灰色の外套に、余計な装飾のない記録鞄。彼女は名乗るなり、私の机へ並んだ乾燥中の原本を一瞥した。


「噂より、ずっと現場の顔をしているのね」


「噂は修復してくれませんから」


 私が答えると、彼女はほんの少しだけ口元を緩めた。


 マーガレーテは王都学舎局から、教本供給の遅れを監査しに来たという。けれど書類を見せる前に、彼女は村の子どもたちが受け取った仮綴じ教本を確認した。


「これ、昨夜刷ったの?」


「はい。正式契約が止まっても、授業は止められませんでした」


 彼女は頁をめくり、綴じを確かめ、すぐに頷いた。


「正しい判断よ」


 その一言に、私は少し驚いた。王都から来る監督役といえば、まず形式を責めるものだと思っていたからだ。


 私は救い出した原本と、勅許状の再圧跡、二重帳面、寄進台帳を順に示した。マーガレーテは質問こそ鋭いが、紙の論理を外さない。


「つまり、学舎教本補助金を奪うために契約を差し替え、その穴埋めとして水車権まで取りに来た」


「ええ」


「なら公開聴聞にしましょう。子どもの本に関わる不正は、役場の奥で済ませるべきではない」


 彼女は記録鞄から正式通知を取り出した。


「私が学舎局側の証人になります」


 私は思わず背筋を伸ばした。同じように紙の重さを知る女性が、今ここにいる。


「ありがとうございます」


 マーガレーテは首を振る。


「礼は、子どもたちへ本が届いてからでいいわ」


 その日、工房の掲示板には新しい告知が貼られた。


 北辺学舎教本契約および水車権に関する公開聴聞。会場、北辺文書修復工房前庭。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ