第29話 焼き直された勅許印
夜、私は勅許状の封蝋を再び机へ置いた。
昼の公開製本で得た開校証の断片と並べると、焼き痕の深さが違う。開校証は本当に火をかぶった痕だ。だが勅許状の封蝋は、表面だけが甘く溶けている。
「再圧です」
私はルーカスへ説明した。
「一度切り開いた封を、柔らかくして押し直した。だから縁の灰が噛んでいない」
封蝋の裏へ紙粉が巻き込まれている位置も不自然だ。最初の封ではなく、あとから押した時に付いたものだろう。
さらに私は、封筒の内側に残る糊跡を見た。本来の添付頁より、今の契約別紙の方が一枚だけ薄い。入れ替えたあと、帳尻を合わせるために裁断している。
「王都から届く前に触ったのではなく、届いたあとに開けてる」
エルザが言った。
「港か、商会か」
「ええ」
そのタイミングで、昼の騒ぎを見ていた使者の一人が工房へ戻ってきた。彼は震えた声で教えてくれた。
「勅許状は王都から直接学舎局へ届いたあと、北辺港で一晩、グランツ商会の倉庫へ預けられています」
理由は『雨避けのため』。けれど封を焼き直した費用が二重帳面に残っている以上、偶然ではない。
「これで勅許状の差し替え経路が揃いました」
私は封蝋の図を記録紙へ写した。
「契約そのものは無効にできます」
けれどルーカスは、工房の窓外を見たまま言う。
「商会は次を打つ」
その予想は当たった。
翌朝、町役場の掲示板に新しい契約が貼られた。『北辺川水車統合管理契約』。水車と製紙場の運用を、グランツ商会が一括で引き受けるという内容だった。
教本の次は、紙を作る川そのものが狙われている。




