第28話 公開製本の日
敵が紙を隠すなら、こちらは紙を見える場所へ戻す。
私は工房の前庭で、公開製本の日を開いた。村人が古い契約書や破れた本を持ち寄り、その場で修復や綴じ直しの工程を見せる一日だ。
「紙がどう守られるか、みんなに知ってもらいたいんです」
そう言うと、ヨハンは黙って机を増やし、エルザは受付札を並べてくれた。ルーカスは誰にも気づかれない顔で、工房の出入口に兵を置いている。
最初に列を作ったのは子どもたちだった。破れた読み物、ぬれた算術帳、落書きだらけの古い教本。私は一冊ずつ受け取り、背を直し、抜けた頁へ薄紙を入れた。
「わあ、開く」
小さな声が上がるたび、工房の空気が少しやわらぐ。
昼過ぎ、一人の少女が焦げた布筒を抱えてきた。
「おばあちゃんの家の屋根裏にあったの」
中に入っていたのは、焼けた証明書の断片だった。金の縁飾りと、学舎印、そして『北辺第一学舎』の文字。
「開校証の一部ね」
私が呟いた瞬間、背後で布が擦れる気配がした。振り向くと、見知らぬ男が少女の腕から布筒を奪おうとしている。
だが次の瞬間には、男の手首がルーカスに押さえられていた。
「触るな」
低い一言で、前庭が静まる。男は商会の雑役だとすぐわかった。袖口に、グランツ商会の裁断記号が刺繍されていたからだ。
私は布筒を受け取り、少女へ微笑む。
「持ってきてくれてありがとう。大切に直します」
その日の終わり、私の机には修復依頼だけではなく、証言と断片も積み上がっていた。
紙を見せれば、人は思い出す。
そして思い出した証言は、どんな焼け跡より強い。




