第25話 閉ざされた学舎書庫
翌日、私たちは山裾の小さな学舎へ向かった。
石壁の教室には、年の違う子どもたちが同じ長机に並んでいた。窓辺で授業をしていたイーダが、私たちを見るとほっとしたように肩を下ろす。
「三冊を二十四人で回しています」
机の上の教本は、角が丸く、頁の端へ子どもの小さな指跡が染み込んでいた。私はそのうち一冊を開く。背が割れ、数枚がばらばらになっている。
「授業のあと、順番に写して帰るんです」
一人の男の子が、少し誇らしげに言った。私は胸の奥がきゅっと縮むのを感じた。
書庫を見せてもらうと、鍵はかかっていないのに扉だけが固く閉じられていた。中に入ると、棚の一角へ不自然な空白がある。箱型の記録函が置かれていた跡だ。
「そこには何が?」
「開校証と、寄進台帳の控えです」
イーダが答える。
「春先に町の書記が来て、『教本改定に必要だ』と持っていきました」
私は書庫の貸出帳を開いた。ちょうどその春先の頁だけが、綺麗に切り取られている。
「記録を消してますね」
棚の隅に、破れた布袋が落ちていた。拾うと、中から小さな真鍮の留め具が出てくる。学舎印つきの証明書箱に使われる金具だ。
「箱ごと持ち出されたのね」
その時、窓際の女の子が、おずおずと私を呼んだ。
「これ、落ちてたの」
差し出されたのは、焼け焦げた厚紙の欠片だった。金色の縁飾りと、『開校』の二文字だけが残っている。
私はそっと受け取る。
「ありがとう。大事なものです」
イーダが唇を引き結んだ。
「学舎の紙まで奪う理由が、そんなにありますか」
「あります」
私は閉ざされた書庫を振り返った。
「学校を支える紙が消えれば、補助金も、水車も、土地の約束もまとめて奪えます」
そして開校証と対になる記録がどこに残るか、私はもう見当がついていた。
修道院の寄進台帳だ。




