表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/40

第25話 閉ざされた学舎書庫

翌日、私たちは山裾の小さな学舎へ向かった。


 石壁の教室には、年の違う子どもたちが同じ長机に並んでいた。窓辺で授業をしていたイーダが、私たちを見るとほっとしたように肩を下ろす。


「三冊を二十四人で回しています」


 机の上の教本は、角が丸く、頁の端へ子どもの小さな指跡が染み込んでいた。私はそのうち一冊を開く。背が割れ、数枚がばらばらになっている。


「授業のあと、順番に写して帰るんです」


 一人の男の子が、少し誇らしげに言った。私は胸の奥がきゅっと縮むのを感じた。


 書庫を見せてもらうと、鍵はかかっていないのに扉だけが固く閉じられていた。中に入ると、棚の一角へ不自然な空白がある。箱型の記録函が置かれていた跡だ。


「そこには何が?」


「開校証と、寄進台帳の控えです」


 イーダが答える。


「春先に町の書記が来て、『教本改定に必要だ』と持っていきました」


 私は書庫の貸出帳を開いた。ちょうどその春先の頁だけが、綺麗に切り取られている。


「記録を消してますね」


 棚の隅に、破れた布袋が落ちていた。拾うと、中から小さな真鍮の留め具が出てくる。学舎印つきの証明書箱に使われる金具だ。


「箱ごと持ち出されたのね」


 その時、窓際の女の子が、おずおずと私を呼んだ。


「これ、落ちてたの」


 差し出されたのは、焼け焦げた厚紙の欠片だった。金色の縁飾りと、『開校』の二文字だけが残っている。


 私はそっと受け取る。


「ありがとう。大事なものです」


 イーダが唇を引き結んだ。


「学舎の紙まで奪う理由が、そんなにありますか」


「あります」


 私は閉ざされた書庫を振り返った。


「学校を支える紙が消えれば、補助金も、水車も、土地の約束もまとめて奪えます」


 そして開校証と対になる記録がどこに残るか、私はもう見当がついていた。


 修道院の寄進台帳だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ