第23話 雪花印と王都紙
透かしは、光にしか嘘をつかない。
私は工房の窓際へ契約書を立て、薄い木枠に挟んだ。午前の陽が紙を透かすと、一頁目には王都学舎局の冠水印が浮かび、問題の添付頁には北辺紙工組合の雪花印が現れた。
「やっぱり」
私は細く息を吐く。
「本体は王都紙。添付頁だけ北辺紙です」
エルザが瞬きをした。
「でも王都から届いた書類ですよね」
「届いてから差し込まれたんです。しかも雪花印の上へ薄く王都澱粉を引いて、手触りだけ合わせている」
そうすることで、急いで触った相手には同じ紙に見せられる。けれど透かしの位置までは偽装できない。
ヨハンが紙端を嗅いだ。
「漂白の匂いが強い。グランツの倉庫で扱う上塗り紙に近いな」
私は頷いた。北辺紙そのものは悪くない。ただ、グランツ紙商会はそれを買い集め、別名で転売して利幅を抜くことで知られている。
「雪花印が出るなら、紙は北辺から出た。でも契約は王都経由で戻ってきた」
ルーカスが言う。
「間に入れるのは、両方を握っている商会だけだな」
私は頁の下端をさらに調べた。そこには紙問屋の裁断記号が、ごく小さく残っている。三本線と点。グランツ紙商会の荷束札と同じ印だった。
「これで、差し替えに使われた紙の出所は押さえられます」
その時、ヨハンが倉庫から一枚の荷札を持ってきた。先週届いた教本用紙の束につけられていたものだという。
品目には『北辺学舎用』とあるのに、数量欄は七村分しかない。
「契約の別紙と同じ数ですね」
「ええ。最初から足りない数で発注している」
私は荷札を記録箱へ入れた。
「次は印刷前の工程を探ります。差し替えた人間は、ただ紙を抜いたんじゃない。活字の組み方まで変えているはずです」
ルーカスは短く言った。
「活字棚を見るか」
「お願いします。今日は重いものを動かします」
無口な夫は、もう袖をまくっていた。




