第18話 義妹が隠した誓約書
誓約書は、驚くほど近くにあった。
聴取前の所持品検査で預けさせられていたミレイユの香料箱。その底板が二重になっていると気づいたのは、強すぎる白薔薇の匂いが木肌の内側から漏れていたからだ。
板を外すと、油紙で巻かれた細い束が現れた。香油に濡れて滲んでいたが、読めないほどではない。私は保護紙を重ね、文字を拾っていく。
『ハルト商会はヴァイス家旧債務の全額を肩代わりする。その代わり、王立文書院保管の冬季契約原本を差し替え、クラウディア・ヴァイスの管理印を婚姻後移管させること』
署名はフェリクス、ミレイユ、そして紙商キャレル。
「これが動機です」
私は誓約書を机の中央へ置いた。
「借金の肩代わりと、横流し利益の分配。そのために火事まで起こした」
ミレイユが崩れ落ちる。フェリクスは立ち上がろうとしたが、監察官に押さえられた。
「違う、俺は火なんて」
「でも指示はした」
私が言うと、昨夜捕まえた男の供述書が読み上げられた。台帳を濡らせと命じた人物、報酬の出処、臨時庫の鍵番号。もう言い逃れはできない。
その場で二人の拘束が決まり、契約局長は蒼白になって頭を下げた。文書院長も、私の鍵章を返しながら震える声で言う。
「クラウディア・ヴァイス。君の名誉は回復された」
私は受け取った鍵章を掌に載せた。軽い。以前よりずっと軽かった。
もう、これだけに縛られる必要はないからだ。




