16/40
第16話 王都文書院への帰還
王都へ戻る馬車の窓から見えた王立文書院は、以前より少しだけ小さく見えた。
怯えが消えたからだろう。私は証拠箱を抱えたまま、正門をくぐる。出迎えたヘルミーネが、ほんのわずかに目元を緩めた。
「遅かったわね」
「直すものが多かったので」
聴取はその日の午後、文書院監査室で始まった。長机の向こうに監察官、契約局長、記録官たち。フェリクスとミレイユは整った顔で座っているが、私にはもう紙の裏から見える薄さしか感じられない。
「提出します」
私は順に証拠を並べた。焼けた契約書は燃えたあとに綴じ直されたこと。逆刷り帳には追加条文の影が残っていること。港の積荷帳が、原本の輸送先を示すこと。
フェリクスは鼻で笑った。
「北辺の工房が勝手に作った資料だ」
「なら、王立文書院の請求票も偽物だと?」
私はヘルミーネから受け取った控えを出した。契約書持ち出し請求。署名はフェリクス本人。
監査室がざわつく。ミレイユが涙声を作った。
「お義姉様は、わたくしを嫌って……」
「嫌ってなどいません」
私は静かに言った。
「ただ、紙を傷める手つきは見逃せないだけです」
最後に、私は鍵のかかった油紙包みを机へ置いた。
「原本管理台帳の残片です。本体はまだ読めます」
フェリクスの顔から、初めて色が引いた。




