表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/40

第13話 書庫を濡らした夜の侵入者

 原本管理台帳は、自分から出てきてはくれなかった。


 代わりに真夜中、工房の裏手で水の破裂音がした。飛び起きて駆けつけると、書庫へ通じる給水管が割られ、水が床を走っていた。


「上だ、紙庫を閉めろ!」


 ルーカスの声が飛ぶ。私は修復台の上の証拠箱へ走り、逆刷り帳と港の積荷帳を抱え上げた。水はもう足首まで来ている。


 ルーカスは外套を脱ぎ捨て、膝まで水に浸かりながら圧板棚を押し上げた。インクの染みた手が、濡れた木を掴むたび滑る。


「クラウディア、そっちは」


「大丈夫。婚姻契約書は確保しました」


 ヨハンが裏口で男を取り押さえた。顔を隠した小男の懐から出てきたのは、ハルト商会の荷札束と、文書院の旧保管印を包んだ布袋だった。


「誰の指示?」


 ルーカスが問うと、小男は震えながら答えた。


「帳簿を……原本管理台帳を、見つけたら濡らして読めなくしろって……」


 やはりある。


 排水が落ち着いたあと、私は濡れた床板の浮き方に違和感を覚えた。印刷機の下、一枚だけ新しい板が使われている。こじ開けると、中に細長い抽斗が隠されていた。


 中身は半分だけの台帳と、小さな鍵。


 頁は水を避けるように油紙で包まれている。誰かが捨てきれず、ここへ隠したのだ。


「これで終わりに近づいた」


 私が言うと、ルーカスは濡れた髪のまま短く笑った。


「なら今夜の水も無駄じゃない」


 黒く汚れたその手を見て、私は胸のどこかが静かに熱くなるのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ