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第11話 印刷祭の一日工房

 証拠が揃い始めた頃、私は工房を一日だけ開放することを提案した。


「印刷祭?」


 エルザが目を丸くする。


「ええ。契約書や証明書を無料で点検する日を作るんです。工房が何を守る場所か、領民に見てもらいたい」


 ルーカスは少し考え、すぐに許可を出した。


 当日、工房の前には予想以上の列ができた。古い婚姻証、徒弟契約、譲渡証、借地票。私は破れた紙を綴じ直し、必要なものは複製を刷り、どこが危ないかも説明した。


「この透かしが上下逆なら、後から差し替えられた可能性が高いです」


 私がそう言うたび、人々の顔に理解の色が増える。文書は偉い人だけのものではない。暮らしを守る紙なのだと、皆が知っていく。


 一方でミレイユは、招かれた商人や役人へ笑顔を振りまいていた。けれど封蝋の温度も、紙の乾きも答えられず、結局は何も直せない。


「主任はクラウディアだ」


 ルーカスが列の前でそう言った時、工房の空気が静かに定まった。


 祭の終わり際、一人の老女が焦げた包みを差し出した。


「川辺の別荘跡で見つけたんだよ。商会の若旦那がよく出入りしてた家さ」


 包みの中には、半分焼けた契約書が入っていた。厚手の上質紙、婚姻契約用の飾り罫。


 私は胸の奥が冷えるのを感じた。


「……持ち帰ります。これは、たぶん私のための紙です」


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