表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/40

第10話 港町へ運ばれた紙束

 北辺港は朝霧の中でも騒がしかった。


 荷車、漁船、倉庫番、紙問屋。風に塩気が混じる場所で、私は水濡れした荷札と出荷台帳を並べた。港の帳場を預かる老書記が、眉をひそめて私たちを見る。


「宗教冊子用紙? そんな厚い紙は入ってきてねえよ」


「でも、この荷札はあなたの帳場を通っています」


 私は荷札の裏に貼りついた青い繊維を示した。北辺港特有の麻紐だ。


 老書記は渋々、雨で滲んだ積荷帳を出してくれた。私はその場で乾燥板を借り、頁を押さえながら文字を拾う。


 宗教冊子用紙と書かれた欄の下に、別の筆跡で小さく『契約厚紙 二十束 受領者F・H』と追記されていた。


「F・Hはフェリクス・ハルト」


 ルーカスが言う。


「受領場所は?」


 頁の端が擦れて読みにくかったが、水染みの下に倉庫番号が残っていた。第三埠頭裏、ハルト商会臨時庫。


 さらに荷役人の一人が、思い出したように口を開く。


「ああ、その荷なら、白薔薇みたいな匂いのするお嬢さんも一緒だったな。寒いのに香りだけは強くてさ」


 ミレイユだ。


 風が強くなり、帳面がめくれそうになる。私は手を伸ばしたが、先にルーカスの外套が肩へ掛けられた。


「紙は飛ばせても、君は飛ばすな」


 真顔でそう言われ、返事に困る。けれどその一瞬で、冷えきっていた指先の感覚が戻った。


 私たちは港を出る前に、臨時庫の旧管理票も回収した。そこには、文書院から持ち出された原本の保管料が記されていた。


 紙束の道筋は、ついに王都の嘘と一本につながった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ