対峙
水環区の鐘は、鳴りやまなかった。
三度。
間を置いて、また三度。
整備廠の厚い壁を越え、低い音が床と吊り柱を震わせる。
空襲警報とは違う。
火災警報とも違う。
都市の水が止まることを告げる鐘だった。
ミラは部品取り機の列へ走った。
十一機。
どれも完全な機体ではない。
動力炉を抜かれた量産機。
制御器を失った作業機。
砲撃で腰から下を焼かれた西方製機。
ノインには利用可能な部品の一覧に見えるだろう。
ミラには、壊れ方の違う十一の現物に見えた。
目的に合うものは一機しかなかった。
黄色い塗装の大型作業機。
左脚を失い、胸部を開かれたまま、壁へ寄りかかっている。
右腰には外付け油圧筒。
背部には二本の蓄圧槽。
関節制御は電動ではなく、油圧弁を小型電磁器で動かす旧式だった。
「これを使う」
セラが追いつき、携帯灯を作業機へ向けた。
「廃棄番号十二。鉱山用の重量作業機よ。圧力規格がノインの関節と合わない」
「合う方を探してるんじゃない。外から押せるものを探してる」
『改修構成を提示します』
ノインの声が整備廠へ響く。
壁面の大型製図板が点灯した。
都市配電の低下で明滅しながらも、白い線が次々と描かれていく。
作業機の油圧筒を、ノインの右股関節と左大腿外側へ取りつける。
整備廠の圧力蓄槽から起動用の油を満たす。
作業機の蓄圧槽二本を背部へ移設。
油圧筒は機体関節を直接動かさず、腰と大腿を外側から押す。
制御はノインの低出力回線から電磁弁へ送る。
人工筋肉を動かすのではない。
巨大な添え木を、油で伸び縮みさせて歩く。
『機体制御へ使用する電力を通常時の一三パーセントへ低下させた場合、外部油圧器によって直進歩行を維持できます』
「旋回は」
『右脚を軸とし、左脚を滑らせます。最小旋回半径は十八・六メートルです』
「狭い道は通れないな」
『はい』
「姿勢修正は」
『左腕と腰部の残存人工筋肉を使用します』
「左腕は二一本しか動かない」
『そのため、転倒時の回復は困難です』
セラが製図板を見上げた。
「設計に何時間かけたの」
『二十一秒です』
整備廠の工員たちがノインを見る。
第二級補助人格が、規格の異なる機体と工場設備を二十一秒で組み合わせた。
ミラは視線が集まるのを感じた。
仮登録を守るなら、ノインに黙らせるべきだった。
低位変換器を通し、歩行と荷役だけができる機械に見せるべきだった。
だが、水環区の非常電源は二時間も持たない。
「必要な部品を出せ」
バルトが製図板の前へ立った。
「待て。この改修図は工業組合の設備を使って作成された。記録を保存する」
『自己調整部分を除いた構造図であれば提供します』
「拒否権があると思っているのか」
「今は契約の話をしてる時間じゃない」
ミラは作業機の背部へ登り、蓄圧槽の留め具を叩いた。
「セラ。こいつを吊れる走行機は」
「第二走行機だけ。第一は停電で止まった」
「第二は非常母線か」
「あと四十七分で切られる」
「十分だ」
バルトがミラの前へ回る。
「勝手に部品を外すな。都市資産だ」
「二時間後に水環区が止まったら、ここの冷却水も止まる」
「だから手続きを——」
「炉も圧延機も冷却できなくなる。部品を守って工場を焼く気か」
バルトは口を閉じた。
製鉄と機械に関する損失なら理解できる男だった。
「使用部品は全部記録する」
「好きにしろ」
「改修後の機体は、組合の検査対象だ」
「戻ってきたらな」
ミラは留め具へ切断器を当てた。
青白い光が走る。
作業が始まった。
工員四人が作業機を吊る。
二人が蓄圧槽を外す。
セラは整備廠の油圧母管から、使える減圧弁を探した。
ノインは製図板へ寸法を送り続ける。
『第一油圧筒、取付角二十八度。右股関節外側骨格へ三点固定』
「その角度じゃ、伸び切ったときに腰装甲へ当たる」
ミラは右腰の露出した骨格を測った。
『図面上では、三・二センチメートルの間隔があります』
「装甲が熱で膨れてる。実際は一センチもない」
『表面変形を計測できていません』
「角度を二十四へ下げろ」
『二十四度では、歩行時の有効推力が一一パーセント低下します』
「筒を壊すよりましだ」
『修正します』
図面の線が動く。
工員が取付板を切り直す。
ノインは次の部品を示した。
『第二減圧弁は、未使用品を推奨します』
セラが部品棚から銀色の弁を持ってきた。
ミラは受け取らず、作業機についていた古い弁を外した。
外装は錆び、刻印も半分消えている。
「こっちを使う」
『旧部品の内部漏出率は、推定毎分六・八パーセントです』
「だから使う」
『圧力効率が低下します』
「新しい弁は閉じすぎる。お前の制御が一度遅れれば、油圧筒が新しい左膝を横から折る」
『制御遅延は〇・一八秒以内です』
「一回目の歩行ではもっと遅れる。油の温度も違う。配管の中に空気も残る」
『空気抜きを実施します』
「全部は抜けない。古い弁の漏れを逃がしにする」
ノインは一秒ほど返答しなかった。
『理論上、圧力振動は増加します』
「現物では減る」
『その根拠を定量化できません』
「鉱山で使われた弁だ。内壁が均等に削れてる。漏れはするが、途中で引っかからない」
ミラは弁の作動桿を指で押した。
重い。
だが滑らかに戻る。
新しい弁は規格上正しい。
古い弁は、この油と、この温度と、この工場の埃の中で何年も動いた形をしていた。
「お前の計算では、新品が正しい」
『はい』
「私の判断では、こっちだ」
『失敗した場合、左膝関節と右股関節の双方を損傷します』
「分かってる」
『歩行能力を完全に失う可能性があります』
「それも分かってる」
ミラは古い減圧弁を作業台へ置いた。
「使うかどうかは、お前が決めろ。身体はお前のものだ」
工員たちの手が僅かに止まった。
機械の部品を、機械自身に選ばせる整備員はいない。
バルトが何か言いかけた。
セラが視線で止めた。
ノインは古い弁と新しい弁を交互に見た。
主光学器は壊れている。
琥珀色の補助光学器だけが、作動桿の傷を追う。
『私には、あなたが確認した摩耗状態を十分に識別できません』
「そうだな」
『あなたは、旧送電施設で左膝の固定と床の状態を正しく判断しました』
「全部正しかったわけじゃない。巻上機の制動爪は見落とした」
『見落としたことを報告しました』
ノインの声は平坦だった。
それでも、言葉を選んでいるようにミラには聞こえた。
『古い減圧弁を採用します』
「後悔するかもしれないぞ」
『その可能性を含めて、あなたの技術判断へ機体を預けます』
ミラは一度だけ頷いた。
「受け取った」
古い弁が取りつけられる。
右腰に一本。
左大腿に一本。
背部へ二本の蓄圧槽。
太い油圧管が、ノインの外骨格を這う。
胸部の主動力炉からは、別の高圧電纜が引き出された。
三号変圧器へ接続するための送電線。
電纜だけで、成人の胴ほどの太さがある。
機体の後ろを引きずれば切れる。
鉄道用の巻取車へ載せ、ノインの歩行に合わせて工員が牽引することになった。
『構成重量、二・三トン増加』
「灰鉄盆地で外した装甲より重いな」
『歩行消費も増加します』
「炉から使う電力は減る」
『代わりに蓄圧槽の容量を消費します。外部供給なしでの歩行可能時間は、三十八分です』
「東貨物区まで」
『現在の推定速度では三十一分』
「余裕は七分」
『停止、障害物、姿勢修正を含みません』
「余裕はないって言え」
『余裕はありません』
鐘がまた鳴る。
今度は少し遠く聞こえた。
都市の一部で、電気が完全に落ち始めている。
壁面伝声器から報告が入った。
『中央診療院、手術棟以外の照明を停止! 蓄電残量二時間三十七分!』
別の声が重なる。
『浄水第一ポンプ停止! 第二ポンプを手動運転へ切替中!』
さらに、東貨物区から。
『三号変圧器、臨時母線へ移設完了! ただし制御盤が旧規格だ! 同期装置が足りない!』
ノインが即座に応答する。
『私が炉出力を直接同期させます。三号変圧器の一次側を開放状態で維持してください』
伝声器の向こうが静かになった。
『今のは誰だ』
バルトが受話器を取る。
「作業機の保守補助だ。言われた通りにしろ」
『作業機が都市母線へ同期するのか?』
「質問は後だ!」
バルトは受話器を叩きつけるように戻した。
ノインの能力を利用する。
疑う。
記録しようとする。
それでも今は、従うしかない。
改修開始から五十三分後。
ノインの外部油圧系が完成した。
整備廠中央の試験路から、工員たちが退避する。
ノインは吊り鎖を外され、自分の脚で立っていた。
右腰の油圧筒。
左大腿の油圧筒。
背部の蓄圧槽。
追加された部品のどれも、ノイン本来の細い機体線とは合っていない。
三本指になった左手より、さらに異質だった。
『外部油圧系を起動します』
古い減圧弁が開く。
油が配管へ流れる。
右腰の筒が伸びた。
ノインの身体が、突然前へ押し出される。
「右足が早い!」
『制御指示より〇・三一秒先行しています』
左脚の筒が遅れて動く。
新しく移植した太い膝が床へ落ちる。
機体が左へ傾く。
工員たちが逃げる。
ノインは左手を床へつこうとした。
三本指の把持爪が開かない。
「手を使うな! 腰を右へ!」
『油圧筒が応答しません』
「お前の内部腰筋だ! 残ってる方を使え!」
ノインの胸部が捻れる。
右脚が踏み直される。
傾きが止まった。
床まで一メートルの位置で、左肩が静止する。
『転倒を回避しました』
「弁を閉じろ!」
油圧が止まる。
ノインは歪んだ姿勢のまま動かない。
セラが配管へ駆け寄った。
「新品を使うべきだったんじゃないの?」
「弁じゃない」
ミラは右腰の配管へ手を当てた。
振動。
左側。
振動が弱い。
「配管の長さが違う。右は短い。左は背部を回してる」
『図面上の圧力到達差は〇・〇八秒です』
「中に空気が残ってる。左だけ圧縮されてる」
『空気抜きは完了しています』
「図面ではな」
ミラは左側配管の最上部を探った。
継ぎ目の一つが、他より冷たい。
油が来ていない。
「ここだ」
検査ねじを半回転緩める。
最初に空気。
続いて泡立った油が噴き出す。
ミラは泡が消えるまで待ち、ねじを締めた。
『圧力到達差、〇・一二秒まで低下』
「まだ右が早い」
『旧減圧弁の漏出量を増加させますか』
「右だけ一段開けろ」
『効率が低下します』
「左右を合わせる」
ノインが右腰の電磁弁を微調整する。
古い弁から油が逃げる。
床へ黒い滴が落ちた。
『再試験を要求します』
「転んだら新しい膝が終わる」
『理解しています』
「やめるなら今だ」
『継続します』
ミラは試験路から下がった。
「一歩だけだ。右を出して、左を揃える。それ以上動くな」
『了解しました』
油圧系が起動する。
右腰の筒が伸びる。
今度は急に動かない。
右脚が前へ滑る。
〇・一秒遅れて、左大腿の筒が作動する。
太い作業機の膝が身体を支える。
ノインの胸部が僅かに上下する。
右足が接地。
左足が揃う。
一歩。
それだけだった。
だが、転ばなかった。
『歩行を完了しました』
「次は三歩」
『蓄圧槽残量を温存する必要があります』
「一歩で分かるか」
『分かりません』
「なら三歩だ」
ノインが進む。
一歩。
二歩。
左脚の反応が遅れる。
古い減圧弁から油が逃げ、急激な荷重を吸収する。
三歩目。
右腰の筒が震える。
だが引っかからない。
ノインは試験路の中央で停止した。
『直進歩行を維持できます』
工員の一人が小さく息を吐く。
別の者が、外付け配管の振動を確認する。
セラは端末へ結果を記録した。
「理論値より漏出が多い」
「その分、折れなかった」
『ミラの判断と一致します』
ノインが言った。
セラは記録する手を止めた。
「機械が整備員の正しさを証言するのね」
『結果を報告しています』
「そういうことにしておく」
整備廠の外から、装輪車の急制動音が聞こえた。
扉が開く。
エルナが防衛隊員二人を連れて入ってきた。
外套の肩に灰が積もり、額から汗が流れている。
「上流線の三か所は、すべて爆破だった」
「灰旗団か」
「現場で旧軍規格の起爆器を回収した。さらに、北側導水路で大型機の足跡が見つかった」
ノインの補助光学器がエルナへ向く。
『機装兵ですか』
「おそらく一機。水環第一変電所へ向かっている」
「防衛隊の機装兵は」
ミラが尋ねる。
「二機を出した。一機は始動不能。もう一機は西側送電線の防衛に回した。第一変電所には装輪車と歩兵だけだ」
『敵機の目的は、三号変圧器または私の主動力炉と推定します』
「お前が炉をつなぐと知ってるのか」
『知らなくても、臨時送電設備を破壊すれば水環区の停止を確定できます』
エルナは外付け油圧器を見上げた。
「それで戦えるのか」
『直進歩行と低速旋回が可能です。回避運動、跳躍、急制動は不可能です』
「武器は」
「ない」
ミラが答えた。
「左手も二本分しか動かない。炉を送電へ回したら出力は一三パーセントだ」
「なら、現地へ送れない」
『私が必要です』
ノインは即答した。
『三号変圧器と主動力炉の同期は、既存の都市制御器だけでは実行できません』
「接続した後は動けないんだろ」
『最低限の姿勢維持と、外部油圧による低速移動は可能です』
「敵機が来れば」
『戦闘能力は大幅に劣ります』
エルナはミラを見る。
「どうする」
以前なら、現場指揮官が命じた。
機体は従った。
整備員は壊れるときだけ止めた。
今は誰も、命令だけでは決められなかった。
ミラはノインの新しい左膝を見た。
古い減圧弁。
油圧筒。
外付け配管。
一時間前には存在しなかった身体。
ノインは、それをミラの判断へ預けた。
次はミラの番だった。
「接続までは私が見る」
ミラは言った。
「配管、膝、炉の冷却、変圧器との同期。壊れるかどうかは私が決める」
『了解しました』
「敵が来たら、お前が見る」
『戦闘判断を私へ委ねるという意味ですか』
「相手の装備、位置、人の逃げ道。私には全部同時に見えない」
『攻撃対象の承認は必要です』
「人間を狙うな。機体と武器だけ止めろ。目的は送電を維持することだ」
『敵機の操縦者が攻撃を継続した場合は』
「生きて捕まえられるならそうしろ。無理なら、変圧器と住民を優先する」
言葉が整備廠へ残る。
人間の命を、簡単に避けられるとは言わない。
ノインも保証を求めなかった。
『任務目的を確認。水環区への送電を維持し、浄水場と中央診療院の停止を防ぐ。攻撃対象は敵機および送電設備を破壊する装備。戦闘時の機体制御は私が担当します』
「そうだ」
『整備上の限界判断はミラへ委ねます』
「受ける」
『相手の専門判断を、根拠なく否定しない』
ミラはノインを見上げた。
「今決めたのか」
『旧送電施設以降の判断記録から、必要な条件として抽出しました』
「あとで紙に書け」
『現在は出発を優先します』
「分かってる」
工員たちが送電電纜の巻取車を押し出す。
蓄圧槽へ最後の油が充填される。
右腰の圧力。
左大腿の圧力。
古い減圧弁から、規定を超える油が細く漏れている。
ミラは指で触れた。
温度は低い。
まだ持つ。
「開けろ」
旧第六整備廠の非常扉が、手動で左右へ開かれる。
外の街は暗かった。
炉辺区の電気炉は停止し、煙突の赤い光も消えている。
通りでは工員が手灯を持ち、路面の障害物を退けていた。
家々の窓には蝋燭。
遠くの鐘楼街だけが、残った非常電源で薄く照らされている。
ノインが一歩を出す。
外付け油圧筒が伸びる。
右脚。
左脚。
太さの違う二本の脚が、暗い通りへ交互に置かれる。
歩くたびに油が漏れた。
その滴を追うように、送電電纜の巻取車が進む。
ミラは搭乗口へ入った。
エルナの装輪車が前へつく。
後ろには整備工員と油圧補給車。
兵器を出撃させる列には見えない。
壊れた工場設備を、別の工場へ運んでいるような車列だった。
『東貨物区まで、推定二十九分です』
「蓄圧槽は」
『現在条件で三十五分』
「六分余る」
『停止を含みません』
「止まらなければいい」
『障害物があります』
通りの先で、荷車が横倒しになっている。
停電で動かなくなった路面貨車から、人々が積荷を手で降ろしていた。
ノインは止まれない。
急制動すれば油圧筒が膝を折る。
「エルナ、前を空けろ!」
装輪車から隊員たちが飛び降りる。
荷車へ走る。
通りの人間も加わった。
箱。
樽。
車輪。
一つずつ運び出す。
ノインは速度を落とす。
止まらない。
右脚。
左脚。
古い弁が油を逃がし、歩幅を縮める。
残り十メートル。
五メートル。
最後の樽が退けられる。
ノインの右足が、荷車の車軸を跨いだ。
『通過しました』
誰かが道端から機体名を読んだ。
「ノインだ」
仮登録札に書かれた名前。
別の誰かが言う。
「送電しに行く機体だ」
それがどこから伝わったのか、ミラには分からない。
回収任務の話か。
整備廠の工員か。
検問所の兵士か。
通りの人々が道を空ける。
押していた荷車を壁へ寄せる。
停電した店の看板を外す。
誰もノインの正体を知らない。
第二級補助人格だと信じている者。
軍用機だと疑う者。
ただの壊れた作業機にしか見えない者。
それでも、今は同じ道を開けていた。
東貨物区の操車塔が見えた。
その向こうで、青白い火花が上がる。
一度。
二度。
続いて銃声。
エルナの伝声器が鳴った。
『第一変電所から緊急! 大型機一機が外周柵を突破! 装輪車二台損傷!』
ノインの正面表示に、遠方の熱源が浮かぶ。
高い。
人間ではない。
機装兵。
水環区へ向けて移動している。
『敵機を確認しました』
「種類は」
『旧アルディア軍量産型と推定。右腕に機関砲。左腕に破砕槌。胸部装甲へ灰色の識別布』
灰旗団。
こちらには武器がない。
炉出力は、これから都市へ渡す。
外付け油圧で歩ける時間も、残り十一分。
「勝てるか」
ミラは尋ねなかった。
勝てるという言葉に意味はない。
必要なのは、何を守り、何を壊し、どこまで動けるかだった。
「ノイン。戦闘は任せる」
『受理します』
「私は、お前を止めないようにする」
『あなたの技術判断へ、機体を預けます』
操車塔の向こうで、灰色の機装兵が現れた。
右腕の砲身が上がる。
照準先はノインではない。
東貨物区に据えられた、三号変圧器だった。
水環区の鐘が、もう一度鳴った。
残された時間を数える音ではない。
誰が何を守るのかを、都市全体へ問う音だった。




