シーン3 「恋愛圧力」
舞踏会開始の鐘が、
王都全域へ響き渡った。
同時に。
空中宮殿の外壁が、
一斉に発光する。
夜空へ、
巨大な光の花。
歓声。
拍手。
音楽。
王都そのものが、
巨大な劇場へ変わっていた。
空中回廊では、
貴族たちが優雅に行き交う。
宝石。
ドレス。
礼装。
笑顔。
誰もが、
“物語の一員”になった気でいる。
そして。
中央ホール。
最も視線が集まる場所へ。
攻略対象たちが、
現れた。
アルベルト・ルクレール。
白銀の礼装。
王家紋章入りの外套。
照明演出のせいで、
無駄に輝いている。
続いて。
ガイウス・ベルンハルト。
軍服風正装。
長身。
圧が強い。
さらに。
セシル・アークライト。
黒を基調とした礼服。
似合っているのが腹立つ。
攻略対象組、
勢揃い。
その瞬間。
周囲がざわついた。
「あっ……」
「始まる……!」
「メインシナリオ……!?」
「誰と踊るの……!?」
観客視点すぎる。
誰も彼も。
完全に、
“イベント発生”を期待していた。
しかも。
その期待そのものが。
空間魔力を増幅している。
天井の魔導灯が、
微かに脈打つ。
空気が、
甘ったるい。
音楽が鳴るたび。
魔力が揺れる。
視線が集まるたび。
空間が共鳴する。
その中心。
ミレイユ・フェルナン
は。
真っ青だった。
ドレス姿。
本来なら、
誰よりも舞踏会に映える存在。
なのに。
彼女は、
怯えていた。
呼吸が浅い。
指先が震えている。
人々の期待。
視線。
歓声。
全部が。
彼女へ集まってくる。
そのたびに。
空間魔力が、
びくりと反応する。
花弁が舞う。
照明が揺れる。
空気がきらめく。
まるで世界そのものが、
彼女へ媚びているみたいだった。
ミレイユは、
唇を噛む。
「やだ……」
「また……」
怖い。
自分が感情を動かすたび、
周囲がおかしくなる。
嬉しいと思えば、
世界が過剰演出する。
誰かを意識すれば、
空間が共鳴する。
そして今。
王都全体が、
その感情増幅へ接続されている。
彼女自身が。
巨大術式の核だった。
一方。
少し離れた位置。
アルベルトは、
ようやく異常を理解し始めていた。
空気が変だ。
熱狂が、
不自然すぎる。
人々の期待が、
ひとつの方向へ収束している。
しかも。
ミレイユの周囲だけ、
明らかに魔力濃度が違う。
照明すら、
彼女へ合わせて明滅している。
アルベルトは、
小さく呟いた。
「これ……」
一拍。
「本当に危険なのか……?」
遅かった。
その瞬間。
どくん。
王都全域の魔力が、
一度、
脈打った。




