シーン1 「災害対策本部」
王都庁舎地下。
本来なら、
災害時の緊急対策室として使われる大広間。
そこが今。
完全に戦場だった。
壁一面の地図。
魔力流観測盤。
避難経路図。
負傷者搬送ルート。
各区画責任者一覧。
机の上には、
資料の山。
そして中央。
巨大看板。
『大舞踏会災害対策本部』
誰も、
ツッコまない。
もう慣れている。
慣れたくなかった。
長机の最前列。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が、
真顔で資料をめくっていた。
「西区魔力導管、
耐久値不足」
「補強を追加」
「浮遊回廊の避難誘導灯、
再確認」
完全に災害司令官。
その隣では。
クラリス・エヴァレット
が、
死んだ顔で書類整理している。
さらに。
壁際。
セシル・アークライト
は、
観測用魔導盤を眺めながら、
嫌そうに笑っていた。
「うわ。
もう空間魔力上がってる」
「舞踏会まだ三日後だぞ」
「世界、
前日入りしてるな」
「その表現をやめなさい」
即座にレオノーラ。
一方。
部屋の隅。
土木担当、
トーマ
は、
王都水道図面を見ながら青ざめていた。
「中央噴水区画、
また耐圧超えますよこれ……」
「前回、
恋愛演出だけで水道管三本飛んだんですよ……」
隣の。
避難誘導担当、
バルド
も遠い目。
「浮遊舞台崩落時の避難速度、
再計算したが……」
「群衆が“感動して立ち止まる”前提で組まなきゃいけねぇ……」
「最悪だ……」
国家行事のはずなのに。
会話内容が完全に災害対策。
しかも。
全部、
実際に起こり得る。
机中央には、
現在の対応一覧。
■魔力暴走対応班
→ 結界待機
■医療班増設
→ 恋愛イベント負傷対策
■水道保全班
→ 噴水暴走警戒
■群衆避難計画
→ “突然の感動渋滞”対応
■空中落下事故対策
→ 浮遊舞台崩落想定
終わっている。
クラリスが、
避難経路図を机へ広げながら、
とうとう呻いた。
「もう嫌です……」
震える声。
「なぜ舞踏会で、
避難経路図を作っているんですか……」
静寂。
誰も反論できない。
レオノーラは、
真顔のまま答えた。
「必要だからですわ」
あまりにも正論。
クラリス、
机へ突っ伏す。
「普通の舞踏会って、
もっとこう……
音楽とか、
ドレスとかでは……?」
セシルが笑う。
「いやぁ、
この国の舞踏会、
最近は“都市型魔力災害”だから」
「やめてくださいその正式名称みたいな言い方!!」
悲鳴だった。
その瞬間。
警報魔導盤が、
ぴこん、と鳴る。
全員止まる。
セシルが盤面確認。
「あー」
「王宮演出班、
人工流星群の試験始めた」
次の瞬間。
どごぉん!!
遠くで爆発音。
天井が揺れた。
沈黙。
レオノーラは、
静かにこめかみを押さえる。
「……まだ本番前ですわよね?」




