ラストシーン 「恋愛拒絶」
夜。
王立アストレア学園、屋上。
風が強い。
制服の裾が揺れる。
遠くには、
王都の灯り。
規則正しく並ぶ光が、
夜の地平に滲んでいた。
その屋上に。
ミレイユ・フェルナン
は、
一人で立っていた。
誰もいない。
誰とも話さない。
今日は、
ずっとそうだった。
逃げ続けた。
視線から。
会話から。
感情から。
でも。
避ければ避けるほど、
世界は強引になった。
偶然を捏造し。
二人きりを作り。
空気を盛り上げ。
恐怖すら演出へ変える。
もう。
限界だった。
ミレイユは、
夜空を見上げる。
星が滲んで見える。
涙のせいだ。
「……もう」
小さな声。
風に消えそうなくらい弱い。
「誰も、
好きになりたくない」
その瞬間。
ぞわり。
空間魔力が揺れた。
空気が、
一瞬だけ重くなる。
屋上の照明が、
ぱち、と明滅した。
風向きが変わる。
まるで。
世界そのものが。
その言葉に、
苛立ったみたいに。
ミレイユは、
息を呑む。
嫌な感じだった。
怒っている。
何かが。
見えない“世界”が。
恋愛を拒絶した彼女へ、
不快感を向けている。
まるで。
シナリオ通りに動かない役者へ、
観客が苛立つみたいに。
屋上の扉が、
ぎしりと鳴る。
ミレイユは、
反射的に振り返る。
誰もいない。
なのに。
空気だけが、
不自然にざわついている。
怖い。
この世界は。
本当に、
感情を監視している。
一方。
少し離れた校舎棟。
暗い廊下の窓際で。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
屋上を見上げていた。
手元には、
魔力測定器。
針が、
異常な勢いで震えている。
数値は危険域。
しかも。
発生源は、
ミレイユの“拒絶反応”。
その隣で。
セシル・アークライト
が、
静かに呟く。
「運命律が、
焦り始めたな」
レオノーラは、
測定器を見つめたまま、
目を細める。
理解してしまった。
この世界は。
恋愛を推奨しているだけではない。
強制している。
そして。
拒絶を。
許容していない。
レオノーラは、
静かに息を吐いた。
「恋愛を拒絶した瞬間」
一拍。
「世界が敵意を見せましたわね……」




