シーン5 「保護対象」
中庭。
夜風が、
静かに木々を揺らしていた。
ミレイユ・フェルナン
は、
まだベンチに座っている。
泣き疲れたみたいに、
小さく肩を落として。
その隣で。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
腕を組んだまま、
難しい顔をしていた。
完全に。
世界へ怒っている顔だった。
そこへ。
「へぇ」
気の抜けた声。
「こんな場所で密談か」
月明かりの中から、
ひらりと現れたのは。
セシル・アークライト
だった。
いつもの飄々とした笑み。
だが。
二人の空気を見るなり、
その表情が少しだけ変わる。
軽口を飲み込んだ。
珍しい。
「……泣かせたわけじゃありませんわよ」
レオノーラが、
先に釘を刺す。
セシルは肩をすくめた。
「分かってる」
彼は、
ミレイユを見る。
それから。
静かに言った。
「ミレイユは、
運命律の中核だ」
ミレイユの肩が、
びくりと揺れる。
セシルは続けた。
「世界が、
彼女を恋愛イベント発生装置として扱ってる」
最低の言い方だった。
あまりにも雑で。
人間味がなくて。
でも。
正しかった。
だからこそ、
嫌だった。
ミレイユは、
ぎゅっと手を握る。
セシルは、
淡々と分析を続ける。
「感情反応への共鳴率が異常だ」
「好意、
期待、
憧れ、
接近――」
「その全部に、
世界が過剰演出で応答してる」
「たぶん、
普通の人間の何十倍もな」
夜風が吹く。
静かだった。
その静けさが逆に、
言葉の重さを際立たせる。
ミレイユは、
俯く。
やっぱり自分は、
危険なんだ。
そう思いかけた瞬間。
「なら」
レオノーラが、
静かに口を開いた。
セシルが、
視線を向ける。
レオノーラは、
まっすぐ前を見たまま言った。
「この世界から」
一拍。
「彼女を守りますわ」
沈黙。
風が止まる。
セシルが、
わずかに目を見開いた。
驚いたのだ。
本当に少しだけ。
なぜなら。
今までのレオノーラは。
国家を守っていた。
制度を整えていた。
被害を減らしていた。
常に、
全体最適を考えていた。
だが今。
彼女は初めて。
“国家”ではなく。
“個人”を優先した。
それも。
世界そのものを敵に回してでも。
ミレイユが、
呆然とレオノーラを見る。
「……わたしを?」
「当然ですわ」
レオノーラは、
即答した。
「貴女は災害ではありません」
「災害なのは、
この世界の方です」
あまりにも断言するから。
ミレイユは、
少しだけ笑いそうになる。
泣きながら。
セシルは、
そんな二人を見て。
ふっと息を吐いた。
「……なるほど」
小さく呟く。
「世界が嫌うわけだ」
正常な人間関係は。
この世界にとって。
たぶん、
一番都合が悪い。




