シーン4 「レオノーラの怒り」
中庭。
夜風が、
静かに木々を揺らしている。
ミレイユ・フェルナン
は、
俯いたままだった。
「最初から、
好きにならなければいい」
その言葉が。
月明かりの下に、
重く沈んでいく。
沈黙。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
すぐには何も言わなかった。
ただ。
静かに立っている。
ミレイユは、
少しだけ怖くなった。
引かれたかもしれない。
面倒だと思われたかもしれない。
そう思った瞬間。
レオノーラが、
ぽつりと呟いた。
「……ふざけていますわね」
低い声だった。
静かで。
だからこそ、
余計に怒っているのが分かる。
ミレイユが、
はっと顔を上げる。
レオノーラは、
夜空を睨むみたいに、
目を細めていた。
「感情を持つだけで、
災害扱い?」
一歩。
石畳を踏む音。
「好意を抱くだけで、
世界が暴走?」
さらに一歩。
「そんなもの」
一拍。
「欠陥システムですわ」
完全に怒っていた。
だが。
怒りの矛先は、
ミレイユではない。
世界そのものへ向いている。
ミレイユは、
呆然とした。
今まで。
誰も、
そんなふうに言わなかった。
皆。
「すごい」
「奇跡だ」
「運命的」
「ロマンチック」
そう言って。
この異常を、
美しいものとして扱った。
けれど。
レオノーラだけは違う。
彼女は。
これはおかしいと断言した。
しかも。
ミレイユではなく。
“世界の方が間違っている”
と言った。
レオノーラは、
苛立ったように続ける。
「なぜ貴女が、
怯えなければなりませんの」
「なぜ、
普通に笑うことすら、
我慢しなければならないのです」
「誰かを大切に思うことは、
本来、
罪ではありませんわ」
ミレイユの喉が、
ひゅっと詰まる。
涙が、
また滲みそうになる。
レオノーラは、
淡々としている。
だがその声音には。
はっきり怒りがあった。
「世界の都合で、
人間の感情を歪めるなど」
「そんなもの」
「災害と変わりません」
ミレイユは、
言葉を失った。
胸の奥が、
じわりと熱くなる。
苦しかった。
怖かった。
でも。
今。
初めて。
誰かが。
自分を、
“原因”ではなく。
“被害者”として見てくれた。
ミレイユの肩から、
少しだけ力が抜ける。
「……レオノーラ様」
小さな声。
レオノーラは、
ようやく彼女を見る。
その表情は、
まだ不機嫌だった。
完全に、
世界へキレている顔だった。
ミレイユは、
少しだけ。
本当に少しだけ。
救われた気がした。




