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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン3 「攻略対象フルメンバー」

生徒会室は、やたら広かった。


 扉が開いた瞬間、

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 はまずそこに思考を奪われた。


 広い。


 無駄に。


 天井は高く、赤い絨毯はふかふかで、窓には高級魔法硝子が使われている。壁には歴代王族の肖像画。中央には巨大なシャンデリア。


 しかも暖炉つき。


 学園施設に暖炉は必要なのだろうか。


 どう考えても予算が潤沢すぎる。


(絶対に維持費が高い)


 入室一秒で会計感覚が反応した。


 部屋の中央には長机。


 そこへ攻略対象たちが揃っていた。


 まるで乙女ゲームの公式ビジュアルみたいな光景である。


 まず目につくのは、

 アルベルト・ルクレール

 だった。


 窓際に立ち、朝日を背負っている。


 似合うのが腹立つ。


 昨日、温室を半壊させた張本人であるにもかかわらず、表情には一切の曇りがなかった。


 爽やかだった。


 事故の反省という概念が存在していない顔だった。


「やあレオノーラ」


 余裕の笑み。


「昨日はずいぶん派手だったな」


「他人事みたいにおっしゃいますのね」


「青春だからな」


 意味がわからない。


 レオノーラの中で「青春」という単語の信用度が急落した。


 その隣。


 ソファへだらしなく座り、書類を読んでいる男がいる。


 セシル・アークライト

 だった。


 銀髪。


 切れ長の目。


 いかにも頭が良さそうな顔。


 実際かなり頭が良い。


 しかし性格が終わっている。


 彼は書類から目を離さないまま言った。


「温室崩壊程度で済んだなら軽傷だろ」


「“程度”ではありませんわよ」


「去年は時計塔が吹き飛んだ」


「比較対象が終わっていますわね」


 セシルは薄く笑う。


 この男、完全に楽しんでいた。


 災害を。


 そして口論を。


 性格が悪い。


 一方で、

 ガイウス・ベルンハルト

 だけは少し様子が違った。


 大柄な騎士の青年は、妙に気まずそうに咳払いしている。


「……その、昨日は悪かった」


 謝った。


 攻略対象なのに。


 レオノーラは少し驚く。


「貴方、謝罪という概念をご存知でしたのね」


「どういう意味だ」


「感心しておりますの」


 ガイウスは露骨に困った顔をした。


 多分この男は悪人ではない。


 ただ勢いで壁を壊すタイプだ。


 そして部屋の端には、

 ミレイユ・フェルナン

 が座っていた。


 小さく。


 控えめに。


 ものすごく居心地悪そうに。


「お、おはようございます……」


 ぺこり、と頭を下げる。


 その瞬間、なぜか窓の外で小鳥が囀った。


 まだ演出が続いている。


 レオノーラは頭痛を覚えた。


 ミレイユは悪い子ではない。


 むしろかなり善良だ。


 だが存在が小動物すぎる。


 放っておくと野生の奇跡が集まってくる。


 部屋の空気は完全に乙女ゲームだった。


 美形男たち。


 ヒロイン。


 豪華な生徒会室。


 普通ならここで恋愛イベントが始まる。


 だが。


 レオノーラの視線は、長机の上に置かれた高級ティーセットへ向いていた。


(あれ、王国磁器ですわよね……?)


 高い。


 かなり高い。


 しかも五客ある。


 彼女の中で再び、

 「生徒会予算監査」

 の文字が大きくなっていった。

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