シーン1 「感情検知」
図書館魔力暴走事件から、
二時間後。
財政再建委員会臨時調査室。
元は空き教室。
今は。
完全に災害解析本部である。
机の上には、
魔力測定器。
空間共鳴記録。
暴走波形。
被害報告書。
そして。
山積みの頭痛薬。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
無言で記録を確認していた。
ぱらり。
書類をめくる。
数値を見る。
まためくる。
沈黙。
隣では、
セシル・アークライト
が、
椅子を後ろ向きにして座っている。
態度が軽い。
腹立つ。
「で?」
「何かわかったか?」
レオノーラは、
答えない。
代わりに。
測定器を机へ置いた。
かち。
記録水晶が起動する。
空中へ、
魔力波形が投影された。
異常な乱高下。
まるで心拍。
いや。
感情の波。
レオノーラは、
静かに言う。
「……反応点が、
従来と違いますわね」
「違う?」
「ええ」
彼女は、
記録波形の一部を指差した。
「通常、
運命律が活性化するのは、
“イベント成立後”でした」
「ですが今回は違う」
一拍。
「感情発生時点で、
反応しております」
セシル、
少しだけ真顔になる。
「つまり?」
「まだ恋愛ですらありませんの」
レオノーラは、
淡々と続ける。
「好意」
「ときめき」
「意識」
「そういった、
“兆候”段階で、
空間魔力が暴走しております」
沈黙。
重い。
つまり。
好きになったから暴走するのではない。
“少し意識した”
その程度で。
世界が過剰反応している。
レオノーラは、
測定結果を見ながら、
気分が悪そうに眉を寄せた。
「気持ち悪いですわね……」
「感情そのものを、
監視されているみたいですわ」
セシルは、
投影波形を見上げながら。
ぽつりと言った。
「好感度システムだな、これ」
最低にメタかった。
レオノーラ、
即座に睨む。
「その表現、
本当に嫌ですわね」
「でも近いだろ?」
否定できない。
実際。
数値変動が、
“感情好感度”としか思えない挙動をしている。
誰かを意識する。
数値上昇。
距離が近づく。
空間共鳴。
感情高揚。
演出発生。
完全にシステム。
恋愛が。
自然現象ではなく。
管理されたイベントみたいだった。
そして。
さらに問題がある。
レオノーラは、
別の記録水晶を起動する。
そこには。
過去数件の、
運命律暴走比較データ。
王都舞踏会。
噴水事故。
空中音楽隊墜落。
そして。
今回の図書館事件。
セシルは、
波形比較を見て、
眉を上げた。
「……あー」
「露骨だな」
「ええ」
レオノーラも、
静かに頷く。
「ミレイユ様起点だけ、
出力が異常ですの」
桁が違う。
他の生徒なら、
小規模演出程度。
だが。
ミレイユの場合。
少し感情が動くだけで、
図書館全域が暴走する。
まるで。
世界そのものが。
彼女を中心人物として、
扱っているみたいに。
レオノーラは、
ゆっくり呟く。
「……ヒロイン補正」
その言葉に。
空気が、
一瞬だけ冷えた。
セシルは、
苦笑する。
「主人公特権ってやつか」
「最悪ですわね」
本当に。
最悪だった。
誰か一人を。
世界そのものが、
特別扱いしている。
だから偶然が集まる。
だから演出が発生する。
だから。
周囲が巻き込まれる。
レオノーラは、
静かに記録を閉じた。
「この世界」
一拍。
「本気で、
ミレイユ様を中心に回そうとしておりますのね……」




