シーン5 「ミレイユの視点」
重たい空気の中。
会議室の扉が、
静かに開いた。
入ってきたのは、
ミレイユ・フェルナン
だった。
淡い色の髪。
控えめな足音。
この騒がしい攻略対象会議の中で、
彼女だけ空気が柔らかい。
「失礼します……」
小さく頭を下げる。
その瞬間。
なぜか窓の外で、
風が吹いた。
全員、
一斉にセシルを見る。
セシル・アークライト
は、
即座に両手を上げた。
「今回は俺じゃない」
信用がない。
ミレイユは、
困ったように笑いながら席へ着く。
机上の資料を見る。
事故報告。
修繕費。
負傷者一覧。
そして。
恋愛イベント災害記録。
彼女の表情が、
少し曇った。
ミレイユは、
誰よりも理解している。
自分が中心にいる時ほど、
世界が壊れることを。
だから。
彼女は静かに言った。
「レオノーラ様、
誰よりも人を見てるんだと思います」
その言葉に。
攻略対象たちが、
少し顔を上げる。
ミレイユは続けた。
「皆さん、
いつも“すごい人”として見られてますよね」
「王子様とか、
騎士様とか、
攻略対象とか……」
最後だけ妙にメタい。
「でも、
レオノーラ様って」
一拍。
「“生活”を見てるんです」
静かな声だった。
「校舎が壊れたら、
誰が困るのか」
「水道が止まったら、
誰が大変なのか」
「工事する人が、
どれだけ疲れるのか」
「怪我した人が、
どれだけ痛いのか」
ミレイユは、
少し笑った。
「だから皆、
ちゃんと叱られるんですね」
攻略対象たち。
ちょっと刺さる。
特に。
アルベルト。
視線を逸らした。
ガイウスも、
妙に居心地悪そうである。
思い返してみれば。
レオノーラに怒られた時。
彼女は一度も、
“恋愛するな”とは言っていなかった。
危険だからやめろ。
迷惑だから考えろ。
責任を取れ。
そう言っていただけだ。
つまり。
彼女は最初から、
皆を“子供扱い”していない。
対等に。
一人の人間として、
責任を求めていた。
ミレイユが、
小さく息を吐く。
「わたし、
少し羨ましいです」
その言葉に。
室内が静かになる。
「皆さん、
ちゃんと怒られるでしょう?」
「ちゃんと、
向き合ってもらえてる」
ミレイユは、
少し寂しそうに笑った。
「わたしの場合、
周りが勝手に盛り上がっちゃうから……」
その言葉は、
ひどく重かった。
彼女はヒロインだ。
だから世界が勝手に演出する。
空気が盛り上がる。
恋愛になる。
誰かが期待する。
だが。
レオノーラだけは違う。
彼女だけは。
ヒロインではなく、
ミレイユ・フェルナン本人を見ていた。
会議室に、
静かな沈黙が落ちる。
その中で。
セシルだけが、
少し楽しそうに呟いた。
「いやぁ」
「攻略対象、
今さら情緒育ってきたな」
「黙れ」
全員同時だった。




