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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン4 「レオノーラという異物」

 しばらく。


 会議室には、

 紙をめくる音だけが響いていた。


 誰も、

 軽口を叩かない。


 珍しい光景だった。


 攻略対象たちは、

 ようやく現実を見始めている。


 そして。


 その流れの中で、

 自然と一人の名前が浮かび上がった。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 。


 最初に口を開いたのは、

 ガイウスだった。


「……あいつ、

 本気で怒るんだよな」


 ぽつり。


 実感のこもった声。


 アルベルトが、

 疲れた顔で頷く。


「しかも正論で」


 逃げ道がない。


 重い。


 思い返してみれば。


 今まで、

 周囲の人間は皆、

 彼らを持ち上げていた。


 王子だから。


 攻略対象だから。


 格好いいから。


 強いから。


 だから。


「さすがです!」


「素敵です!」


「きゃー!」


 そういう反応ばかりだった。


 誰も。


 本気で叱らない。


 誰も。


 責任を突きつけない。


 だが。


 レオノーラだけは違った。


 あの女。


 恋愛イベントを見るたびに、

 最初に確認するのが。


 負傷者数。


 修繕費。


 避難経路。


 予算。


 そして。


 責任者。


 ロマンの欠片もない。


 いや。


 現実しかない。


 ガイウスが、

 遠い目をする。


「俺、

 初対面で壁の修繕費請求されたぞ」


「僕は噴水使用許可証の提出求められた」


 アルベルトも続く。


「俺なんか、

 舞踏会の収支報告書渡された」


 王子相手にやることではない。


 だが。


 今なら分かる。


 彼女は、

 正しかった。


 誰かが。


 現実を見なければいけなかった。


 恋愛イベントの裏で、

 誰が後始末をしているのか。


 誰が泣いているのか。


 誰が働いているのか。


 彼女だけが、

 ちゃんと見ていた。


 セシルが、

 少し面白そうに笑う。


「この世界、

 攻略対象に説教できる奴、

 ほぼ存在しないからな」


 それは事実だった。


 攻略対象たちは、

 常に“特別扱い”される。


 だが。


 レオノーラは違う。


 王子だろうが。


 騎士だろうが。


 攻略対象だろうが。


 普通に怒る。


 普通に請求する。


 普通に責任を取らせる。


 つまり。


 彼女だけが。


 彼らを、

 “キャラクター”ではなく。


 “人間”として扱っていた。


 アルベルトは、

 そこでふと気づく。


 なぜ。


 最近、

 彼女のことばかり考えてしまうのか。


 なぜ。


 視線を追ってしまうのか。


 なぜ。


 怒られるたびに、

 妙に印象へ残るのか。


「……だから気になるのか」


 小さく。


 誰にも聞こえない声で、

 王子は呟いた。


 その瞬間。


 窓際にいたセシルが、

 にやりと笑う。


「へぇ」


 聞こえていた。


 最悪だった。

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