シーン3 「セシルだけ楽しそう」
重苦しい沈黙が、
会議室へ落ちていた。
アルベルト・ルクレール
は、
まだ報告書を見ている。
ガイウス・ベルンハルト
は、
自分専用災害分類の精神ダメージから立ち直れていない。
空気が暗い。
その中で。
一人だけ。
妙に楽しそうな男がいた。
セシル・アークライト
である。
椅子へだらしなく座り。
頬杖。
口元だけ笑っている。
完全に態度が悪い。
アルベルトが、
じろりと睨んだ。
「……お前、
何でそんな楽しそうなんだ」
「面白いから」
即答。
最低。
セシルは、
机上の資料をぱらぱらめくる。
『壁接触型高出力恋愛事故』
その文字を見て、
また肩が震えた。
「っふ……」
「攻略対象反省会って、
なかなか見ない光景だな」
他人事である。
ガイウス、
机を叩く。
「笑うな!」
「いや、
お前の壁ドン、
本当に兵器判定されてるの面白くて」
「だから笑うな!!」
騎士科最強男子、
本気で傷ついていた。
一方。
アルベルトは、
疲れた顔でセシルを見る。
「お前は反省しろ」
「してる」
一拍。
「世界に」
もっと最低だった。
会議室が静まる。
セシルは、
窓の外を見る。
夕暮れの学園。
穏やか。
静か。
だからこそ。
逆に異常だった。
「そもそも」
セシルが言う。
「普通、
恋愛イベントで校舎半壊しない」
正論。
「普通、
夕日が感情に合わせて出現しない」
「普通、
通行人が空気読んで拍手しない」
アルベルトたちが、
黙る。
セシルだけは、
最初から気づいていた。
この世界は、
おかしい。
偶然が、
都合よすぎる。
展開が、
出来すぎている。
そして。
自分たち攻略対象は。
その“異常な世界”の中心にいる。
「だからさ」
セシルは、
くすりと笑った。
「俺たちが悪いっていうより」
「世界そのものが、
かなり終わってる」
軽い口調。
だが。
誰も否定できなかった。
会議室の空気が、
少し冷える。
この世界では。
恋愛が優先される。
人命より。
予算より。
インフラより。
それを。
誰より先に理解していたのが、
セシルだった。
だからこそ。
彼は少しだけ、
楽しそうだった。
壊れている世界を。
ようやく皆が見始めたから。




