シーン6 「セシルの分析」
夜。
財政再建委員会執務室。
もう日付が変わりかけていた。
窓の外。
王都の灯りが、
静かに瞬いている。
以前より安定した光。
停電も減った。
暴走も減った。
街は確かに、
正常へ近づいている。
執務室の中では。
書類の山。
予算案。
都市整備図面。
保険制度草案。
国家規模の仕事量だった。
その中心。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
まだ働いている。
ペンを走らせる音だけが響く。
そこへ。
「まだやってるのか」
気配なく。
セシル・アークライト
が現れた。
本当に気配がない。
レオノーラは、
もう慣れた。
「貴方、
扉を使う気はありませんの?」
「面倒だから」
最低である。
セシルは、
窓際へ寄りかかる。
しばらく無言。
ただ。
レオノーラを見ている。
書類へ向かう姿。
迷いなく指示を書く姿。
疲れているはずなのに、
手を止めない姿。
やがて。
セシルが、
ぽつりと言った。
「君」
「王より統治向いてるな」
即答だった。
「褒め言葉に聞こえませんわ」
「褒めてない」
「でしょうね」
テンポが速い。
この二人だけ、
会話速度が違う。
セシルは、
王都を見下ろしながら続ける。
「実際」
「国が君の理屈で回り始めてる」
レオノーラは、
ペンを止めた。
少しだけ。
窓の外を見る。
夜道。
安定した魔法灯。
遅くまで営業できる店。
安全な水路。
避難誘導光。
以前より、
人々は安心して暮らしている。
確かに。
変わり始めていた。
だが。
レオノーラの表情は、
晴れなかった。
静かに。
机の端へ置かれた、
魔力測定器を見る。
針が。
小さく揺れている。
一定ではない。
脈打つみたいに。
ぞわり。
空間魔力が、
微かに震えた。
レオノーラの眉が寄る。
「……また」
「反応しておりますのね」
セシルも、
視線を測定器へ向ける。
窓の外。
王都は平和だ。
静かだ。
正常化している。
なのに。
空間魔力だけが、
不穏にざわついている。
まるで。
世界そのものが、
この“正常”を嫌がっているみたいに。
「皮肉だな」
セシルが呟く。
「国がまともになるほど、
運命律が不安定化してる」
レオノーラは、
静かに息を吐く。
理解してしまった。
これは単なる制度改革じゃない。
世界そのものと、
衝突している。
恋愛イベントを、
偶然を、
“盛り上がり”を。
強制する世界と。
彼女は今、
本気で戦い始めているのだ。




