シーン5 「王子たちとのズレ」
王都中央広場。
昼。
晴天。
整備された石畳。
新設された花壇。
安定稼働する魔法灯。
以前より、
ずっと綺麗だった。
そして。
人々は普通に生活している。
それが何より大きかった。
そんな広場中央で。
「もっと自由な恋愛を認めるべきだ!」
やたら通る声が響いた。
通行人たちが、
一斉にそちらを見る。
壇上。
立っていたのは。
アルベルト・ルクレール
だった。
後ろには、
攻略対象組。
ガイウス・ベルンハルト
。
セシル・アークライト
は、
なぜか端で見ているだけ。
完全に他人事の顔。
アルベルトは熱弁していた。
「ロマンは人を幸せにする!」
「感情は規制されるべきではない!」
「愛に許可証など不要だ!」
周囲。
微妙。
以前なら。
歓声。
拍手。
黄色い悲鳴。
そうなっていた。
だが今。
広場のパン屋のおじさんが、
ぼそっと言う。
「また噴水爆発させる気か?」
隣のおばちゃん。
「この前、
洗濯全部やり直しになったのよねぇ」
「水道止まるの困るんだよな」
「税金上がるし」
反応が、
生活者。
アルベルト、
止まる。
「……え?」
困惑。
さらに。
荷運びの青年。
「自由恋愛はいいけど、
交通封鎖は勘弁してくれ」
「この前、
告白イベントで橋閉鎖されたし」
「仕事遅れたんだよ」
完全に苦情だった。
アルベルトの顔が、
少しずつ曇っていく。
彼は悪人ではない。
本気で、
人を楽しませようとしていた。
だが。
今まで。
“盛り上がる側”の声しか、
聞いていなかった。
その後ろで。
ミレイユ・フェルナン
が、
不安そうに周囲を見ている。
人々はもう。
恋愛イベントへ、
純粋に酔えなくなっていた。
現実を知ってしまったから。
修繕費。
断水。
停電。
事故。
税金。
生活。
ロマンの裏側を。
「……そんなに、
迷惑だったのか」
アルベルトが、
小さく呟く。
誰も答えない。
代わりに。
広場の端。
工事帰りの作業員が、
遠い目で言った。
「毎回、
俺たち徹夜なんだよなぁ……」
重い。
その空気の中。
ふと。
後方から、
涼しい声が飛んだ。
「ようやく気づいたか」
振り向く。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
だった。
書類束を抱えたまま、
こちらへ歩いてくる。
「恋愛イベントは、
観客には美しく見えます」
「ですが」
一拍。
「後片付けをする人間が存在しますのよ」
アルベルトは、
言葉を失った。
初めて。
本当に初めて。
彼は理解し始めていた。
ロマンスだけでは、
国は回らない。




