シーン3 「市場安定策」
財政再建委員会。
会議室。
重苦しい沈黙が続いていた。
花市場。
演出業界。
装飾魔導士。
全員、
疲弊している。
怒る気力すら、
もう減っていた。
そんな中。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が、
一冊の分厚い資料を机へ置いた。
ドン。
嫌な重さ。
組合代表たちが、
びくっとする。
表紙。
『市場安定化政策案』
空気が変わった。
レオノーラは、
静かにページを開く。
「まず」
「花市場対策ですわ」
花市場組合長、
顔を上げる。
「余剰花材を、
都市緑化事業へ転用します」
沈黙。
「……は?」
「王都全域の街路整備、
公園再建、
河川景観修復へ投入」
「公共予算で買い上げます」
ざわっ。
役人たちが顔を見合わせる。
レオノーラは止まらない。
「恋愛需要が減少しても、
景観需要は消えません」
「都市美化は治安改善にも繋がります」
花市場組合長、
固まる。
「ば、薔薇を……公共事業に?」
「ええ」
レオノーラは淡々と頷く。
「どうせ余っておりますので」
正論で殴る。
次。
「演出魔法業界」
演出魔導士たちが身を乗り出す。
「恋愛演出魔法を、
防災分野へ転用します」
「防災……?」
「光魔法は、
避難誘導灯へ応用可能」
「空間演出魔法は、
煙幕警報へ転用可能」
「人工夕焼け技術は、
広域照明として利用できますわ」
演出魔導士たち、
静止。
誰も考えたことがなかった。
恋愛のためだけに使っていたから。
「つまり」
レオノーラ。
「職を失う必要はありません」
空気が揺れる。
次。
「装飾魔導士連盟」
「はい……」
「貴方たちは、
都市結界整備へ再雇用します」
「結界……?」
「浮遊制御」
「光制御」
「空間固定」
「全て公共結界技術へ転用可能ですわ」
役人の一人が、
思わず呟く。
「……恋愛演出って、
意外と高度技術だったんだな」
「無駄に進化しておりましたからね」
最後。
レオノーラは、
さらに資料をめくる。
「そして」
「恋愛災害保険制度を創設します」
今度こそ、
会議室全体がざわついた。
「イベント被害を、
国家補償制度へ統合」
「修繕費」
「医療費」
「営業停止損失」
「全て制度化します」
官僚たち、
青ざめる。
「そこまで考えていたのか……?」
「全部、
既に準備済み……?」
レオノーラは、
真顔だった。
「失業者を出せば」
一拍。
「社会不安になりますもの」
静か。
だが。
その場にいた全員が理解した。
この令嬢。
もう学園政治の範囲にいない。
国家運営をしている。
会議室後方。
セシル・アークライト
が、
小さく笑った。
「本当に悪役令嬢か?」
誰も、
否定できなかった。




