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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン2 「怒れる業界」

 午後。


 財政再建委員会本部。


 建物前。


 すでに人だかりだった。


「責任者を出せ!!」


「薔薇が腐ってるんだぞ!!」


「ロマンス産業を殺す気か!!」


 怒号。


 抗議。


 泣き声。


 完全に革命前夜。


 入口では、

 警備兵が青ざめている。


「本当に大丈夫なんですかこれ……」


「大丈夫ではありませんわね」


 即答。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は、

 静かに扉を開けた。


 その瞬間。


「いたぞーーー!!」


「壁ドン税の女だ!!」


 言い方が指名手配犯。


 会議室へ案内された代表団は、

 全員顔が死んでいた。


 花市場組合。


 演出魔法協会。


 装飾魔導士連盟。


 舞踏会衣装組合。


 恋愛広告商会。


 王国の主要産業が、

 一堂に会している。


 なお全員怒っている。


 机を叩き、

 最初に立ち上がったのは、

 花市場組合長だった。


「薔薇が余って腐る!!」


 悲痛。


「去年は一日五千束売れていたんだぞ!!」


「今は百束だ!!」


「求婚需要が死んだ!!」


 重い。


 次。


 演出魔法協会代表。


 杖を振り回しながら叫ぶ。


「人工夕焼け職人が失業した!!」


「若者たちの夢はどうなる!!」


「今、

 普通の夕方しかないんだぞ!!」


 普通でいいのである。


 さらに。


 装飾魔導士。


「浮遊シャンデリア需要が死んだ!!」


「空飛ぶハート結界も誰も買わん!!」


「在庫が倉庫を圧迫している!!」


 深刻だった。


 色んな意味で。


 会議室は、

 怒号で揺れていた。


 だが。


 レオノーラは、

 一度も遮らなかった。


 黙って聞く。


 反論しない。


 逃げない。


 全員の言葉を、

 最後まで受け止める。


 それだけで、

 少しずつ空気が変わっていく。


 やがて。


 怒鳴り疲れた組合長たちが、

 静かになる。


 沈黙。


 そこでようやく。


 レオノーラは、

 口を開いた。


「皆様の損失は理解しております」


 静かな声。


「ですが」


 一拍。


「今までが異常需要でしたの」


 空気、

 凍結。


 誰も喋れない。


 レオノーラは続ける。


「毎週舞踏会」


「毎日告白演出」


「人工夕焼け常設」


「空中薔薇庭園常用」


「それを前提に市場が形成されていた時点で、

 既に経済構造が歪んでおります」


 正論。


 あまりにも正論。


 だから痛い。


 花市場組合長が、

 口をぱくぱくさせる。


「い、いや……でも……」


「恋愛需要は永続すると……」


「世界が保証していた?」


 レオノーラが静かに返す。


 全員、

 言葉を失った。


 確かに。


 この国では、

 恋愛イベントが自然災害みたいに定期発生していた。


 だから皆、

 それが永遠に続くと思っていた。


 経済すら。


 運命律へ依存していた。


 会議室の隅。


 セシル・アークライト

 が、

 壁へ寄りかかりながら呟く。


「国家規模のバブル崩壊だな」


 誰も否定できなかった。

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