シーン6 「運命律の変化」
噴水暴発事故から、
二日後。
王都中央魔力管理塔。
都市全域の魔力流を監視する、
巨大観測施設だった。
円形の室内。
壁一面に浮かぶ魔力図式。
王都を模した立体投影。
光の線が、
血管みたいに街を流れている。
その中央で。
セシル・アークライト
が、
珍しく真面目な顔をしていた。
無言。
ずっと無言。
それが逆に怖い。
「……何か見つかりまして?」
後ろから、
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が声をかける。
セシルは答えない。
代わりに、
空中投影を指でなぞった。
王都中央広場。
噴水。
舞踏会会場。
中庭。
橋。
過去に恋愛イベントが起きた場所。
そこを中心に、
妙な歪みが広がっている。
蜘蛛の巣みたいに。
都市全域へ。
レオノーラの眉が寄る。
「……広がっておりますわね」
「前よりずっと」
セシル、
小さく頷く。
「前までは局所現象だった」
「学園内だけ」
「イベント発生地点だけ」
だが今は違う。
歪みが、
街の構造へ染み込み始めている。
水道。
街灯。
輸送路。
広場。
橋。
公共施設。
全部。
運命律の“演出補助”へ組み込まれ始めていた。
レオノーラは、
立体投影を見つめる。
すると。
中央通り付近。
突然、
魔力波形が跳ねた。
「……今のは?」
「告白未遂」
即答。
「三十秒後」
「夕焼け演出発生」
本当に三十秒後。
窓の外。
空が急に赤く染まる。
しかも不自然なほど綺麗に。
レオノーラ、
嫌そうな顔。
「もう隠す気ありませんの?」
その瞬間。
別区域。
橋付近。
魔力反応。
次に。
街灯が一斉点灯。
風発生。
花弁演出。
通行人密度増加。
完全に舞台演出だった。
セシルが、
初めて表情を険しくする。
「まずいな」
レオノーラ、
彼を見る。
「何がですの?」
短い沈黙。
そして。
セシルは、
王都全体の投影図を見ながら言った。
「世界が」
一拍。
「背景まで演出に使い始めた」
空気が冷える。
レオノーラは、
その意味を理解してしまう。
今までは。
恋愛イベント発生時、
“偶然”が操作されていた。
夕日。
風。
花弁。
転倒。
二人きり。
だが。
今は違う。
都市そのものが、
演出装置になり始めている。
街灯がタイミングよく点く。
噴水が祝福する。
橋が、
“映える位置”へ人を誘導する。
群衆まで、
空気を読む。
まるで。
王都全体が、
巨大な恋愛舞台へ変貌し始めているみたいだった。
レオノーラは、
静かに呟く。
「……都市機能と、
演出機能の境界が消え始めておりますわね」
セシル、
薄く笑う。
「そのうち王都そのものが、
イベント会場になるぞ」
「嫌すぎますわね」
だが。
二人とも。
冗談で済まないことを、
もう理解していた。




