ラスト 「恋愛国家」
夜。
王都高台。
冷たい風が吹いていた。
高所から見下ろす王都は、
数週間前とは別物だった。
灯りが安定している。
水路も正常。
街路結界も稼働。
断水区域は消え、
停電も激減した。
崩れていた石畳は修復され、
夜店の灯りが並び、
人々が普通に笑っている。
“普通”。
この世界では、
それだけで奇跡みたいだった。
高台の手すりへ寄りかかりながら、
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
静かに街を見下ろしていた。
眼下から、
人々の声が聞こえる。
「あの令嬢様のおかげだよ」
「最近、
安心して暮らせる」
「子どもを外に出しても、
急に爆発しなくなったしな」
基準が終わっている。
だが。
それでも。
人々は確かに救われていた。
パン屋は営業できる。
洗濯屋は水を使える。
病院は止まらない。
夜道も明るい。
生活が戻ってきている。
レオノーラは、
小さく息を吐いた。
少なくとも。
無意味ではなかった。
その時。
遠く。
王都西区。
ぱぁぁぁっ――。
光。
まただ。
空へ舞う花弁。
不自然に美しい風。
鐘の音。
恋愛イベント演出。
しかも。
周囲の空間魔力が、
じわりと反応している。
高台にまで、
微かな振動が届いた。
レオノーラの表情が曇る。
復旧した。
改善した。
制度も整えた。
それなのに。
世界はまだ、
恋愛イベントを拡張し続けている。
まるで。
都市機能そのものを、
“演出装置”へ変えようとしているみたいに。
レオノーラは、
遠くの光景を見つめながら呟く。
「……恋愛が」
一拍。
「国家機能へ侵食しておりますわね……」
風が吹く。
そして。
遠方で、
また鐘が鳴った。
カァン――。
空間魔力。
微増。
王都全域へ、
静かに広がっていく。
それはまるで。
次のイベントを。
次の“盛り上がり”を。
世界そのものが、
嬉々として準備しているみたいだった。




