シーン3 「運命律の抵抗」
だが。
世界は、
素直に従わなかった。
制度導入から二週間後。
王立アストレア学園では、
新たな異変が起き始める。
最初に気づいたのは、
クラリス・エヴァレット
だった。
彼女は、
恋愛演出許可申請窓口で、
奇妙な統計を見つける。
「……おかしいですわね」
未申請イベント。
その発生率だけが、
異常に高い。
しかも。
強引。
とにかく、
強引だった。
例えば。
申請書提出直前。
告白予定だった男子生徒が、
廊下で転倒。
書類が空中へ舞う。
偶然通りかかった女子生徒と激突。
抱き止め。
夕日。
花弁。
謎の風。
そのままイベント成立。
提出不能。
さらに。
監視担当教員だけ、
なぜか腹痛。
「急に胃が……!」
絶妙なタイミング。
しかも。
その瞬間に限って、
校内停電。
監視魔導具停止。
見回り消失。
結果。
人気のない温室で、
二人きりイベント発生。
あまりにも露骨だった。
委員会室。
大量の報告書を前に、
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
静かに眉を寄せる。
「偶然にしては、
悪質すぎますわね……」
窓際。
いつの間にかいた
セシル・アークライト
が、
書類を眺めながら呟いた。
「世界が」
一拍。
「制度を嫌がってるな」
部屋の空気が、
静かに冷える。
レオノーラは、
ゆっくり顔を上げた。
理解してしまう。
運命律は、
ただ恋愛イベントを起こすだけではない。
もっと厄介だ。
あれは。
“管理されること”
そのものを拒絶している。
申請。
規制。
予算。
安全基準。
そういう現実的な枠組みを、
露骨に嫌っている。
だから。
世界は、
強引にでも。
偶然を捻じ曲げてでも。
“自然な恋愛イベント”
を成立させようとする。
まるで。
シナリオ通りに進まないことへ、
苛立っているみたいに。
気持ち悪い。
本当に。
気持ち悪い。
レオノーラは、
机上の魔力測定器を見る。
微弱に震えている。
まるで。
見えない何かが、
笑っているみたいだった。




