シーン2 「試験導入」
制度導入から三日後。
試験区域として選ばれた
王立アストレア学園は、
かつてない混乱に包まれていた。
掲示板。
新たに貼り出された大量の通達。
『恋愛演出事前申請について』
『壁接触型イベント課税一覧』
『魔力演出安全基準』
『告白時の避難経路確保義務』
字面が完全に災害マニュアルである。
生徒たち、
騒然。
「恋愛に申請が必要!?」
「ロマンが死ぬ!」
「自由への弾圧だ!」
「俺たちの青春を返せ!」
革命前みたいな空気だった。
特に騎士科。
壁ドン税への反発が激しい。
「何で壁を叩くだけで課税されるんだ!」
「前回校舎が崩れたからです」
即答したのは、
窓口担当の
クラリス・エヴァレット
だった。
目の下の隈が深い。
だが口調だけは異様に強い。
「なお、
石造壁は高税率です」
「木造は禁止」
「校舎共有部への感情魔力流入は、
追加罰金対象となります」
完全に治安維持法。
生徒たち、
引く。
一方。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
冷静に結果を見ていた。
最初こそ反発は大きかった。
だが。
制度開始から一週間。
明らかに変化が出始める。
まず。
校舎が爆発しない。
これだけで革命だった。
さらに。
魔力暴走減少。
排水路正常化。
噴水破裂ゼロ。
窓ガラス生存率向上。
そして何より。
用務員たちの顔色が、
人類へ戻り始めた。
夕方。
校舎裏。
掃除用具を片付けていた
トーマ
が、
突然泣き始めた。
「半年ぶりに定時帰宅しました……」
重い。
周囲の用務員たちも、
目を潤ませる。
「昨日、
床が爆発しなかった……」
「花弁除去が三時間で終わった……」
「夜勤がない……」
戦後だった。
さらに。
修復班詰所。
主任の
バルド
が、
遠い目で校舎を見上げていた。
「最近……」
一拍。
「校舎が爆発しない……」
しみじみ言う。
「静かだ……」
完全に戦争帰還兵の台詞だった。
その後ろでは、
若い修復員たちが困惑している。
「主任、
休んでください」
「休み方を忘れた」
悲しい。




