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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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第二部 第一話 『悪役令嬢、議会へ呼ばれる』 Opening 「召喚状」

朝。


 ヴァレンシュタイン公爵家の朝は、

 いつだって静かだった。


 磨き抜かれた銀食器。


 長い白布の食卓。


 規則正しく並ぶ給仕たち。


 窓から差し込む柔らかな陽光。


 完璧。


 そう、

 本来なら完璧な朝だった。


 ただし今日は。


 屋敷全体に、

 妙な緊張感が漂っていた。


 理由は簡単。


 ここ数ヶ月。


 王立アストレア学園では、


 爆発。


 崩壊。


 暴走。


 停電。


 噴水破裂。


 壁ドン倒壊。


 舞踏会災害。


 などが頻発していたからである。


 しかも原因の大半が、

 恋愛イベント。


 国家としてそろそろ限界だった。


 そんな朝。


 食堂の扉が開く。


 執事が、

 必要以上に厳かな顔で告げた。


「王宮より使者がお見えです」


 空気が張る。


 入ってきた使者は、

 黒い礼装に身を包み、

 やたら重厚な封書を抱えていた。


 封蝋には王家紋章。


 見た目が完全に裁判通知である。


 使用人たちの顔色が変わる。


 使者は恭しく頭を下げた。


「レオノーラ・ヴァレンシュタイン様」


「こちらを」


 差し出される封書。


 重い。


 物理的にも、

 空気的にも。


 レオノーラは受け取り、

 静かに開封した。


 紙を広げる音だけが響く。


 使用人たち、

 息を呑む。


 内容。


『王国議会出席命令』


 さらに。


『王立アストレア学園財政崩壊に関する説明要求』


 沈黙。


 食堂の空気が死んだ。


 侍女の一人が、

 小さく息を漏らす。


「つ、ついに……」


 別の侍女も青ざめる。


「断罪……?」


「王子殿下への責任追及が……」


「公開裁判では……?」


 完全に処刑前夜の空気である。


 だが。


 当の本人だけが、

 異様に落ち着いていた。


 レオノーラは、

 通知書を一通り読み終えると。


 カップを持ち上げ。


 優雅に紅茶を一口。


 そして。


「ようやくですの?」


 使用人一同、

 固まる。


 空気がおかしい。


 普通、

 もっと焦る。


 しかしレオノーラは、

 むしろ納得した顔をしていた。


 内心。


 遅い。


 と、

 本気で思っている。


 だって。


 空飛ぶ薔薇庭園で温室は吹き飛び。


 壁ドンで校舎が崩壊し。


 舞踏会では王都が停電した。


 国家案件にならない方がおかしい。


 むしろ。


 今まで学園内で処理しようとしていたことの方が、

 狂気である。


 レオノーラは、

 静かにため息をついた。


「さて」


 一拍。


「ようやく国家規模の監査ですわね」

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