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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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ラストシーン

夜。


 王立アストレア学園は、

 昼間とは別の顔をしていた。


 人気のない廊下。


 静かな空気。


 窓から差し込む月光だけが、

 床を青白く照らしている。


 遠くでは、

 まだ修復工事の音が響いていた。


 カン。


 カン。


 瓦礫を片付ける音。


 誰かが徹夜している音。


 恋愛イベントの後始末の音だった。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は、

 一人で廊下を歩いていた。


 手には資料。


 舞踏会の被害報告。


 魔力観測記録。


 運命律の分析。


 数字は嘘をつかない。


 そして数字は、

 この世界が壊れていると示していた。


 世界。


 運命律。


 シナリオ。


 恋愛イベント。


 奇跡。


 全部が繋がり始めている。


 この世界は、

 人間の幸福のために動いていない。


 “盛り上がる展開”

 を優先している。


 だから。


 都合よく出会い。


 都合よく転び。


 都合よく夕日が差し。


 都合よく破滅する。


 まるで。


 誰かが、

 物語を書いているみたいに。


 その時だった。


 パチ。


 拍手の音。


 たった一回。


 けれど。


 静かな廊下では、

 異様なほど大きく響いた。


 レオノーラの足が止まる。


 ゆっくり振り返る。


 誰もいない。


 廊下は静寂。


 窓。


 月光。


 影。


 それだけ。


 沈黙。


 だが。


 少し遅れて。


 パチ。


 パチパチ。


 パチパチパチ……。


 拍手。


 増えていく。


 見えない。


 誰もいない。


 なのに。


 確かに聞こえる。


 まるで。


 観客席。


 舞台の名場面を見た観客が、

 満足そうに拍手しているみたいに。


 ぞわり。


 空気が冷える。


 レオノーラは理解する。


 この世界は、

 閉じていない。


 恋愛イベント。


 破滅。


 奇跡。


 感動。


 全部。


 誰かに見られている。


 娯楽として。


 楽しむために。


 消費するために。


 レオノーラは、

 ゆっくり目を閉じた。


 恐怖はあった。


 だがそれ以上に。


 妙な納得があった。


 だから。


 彼女は静かに笑った。


「なるほど」


 一拍。


 月光の下で。


 悪役令嬢は、

 世界の正体へ辿り着く。


「わたくしたちは、

 見世物でしたのね」

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