シーン6 「ミレイユの苦悩」
夕焼けが、
少しずつ薄れていく。
中庭の熱気も、
ようやく落ち着き始めていた。
けれど。
ミレイユ・フェルナン
だけは、
まだ俯いたままだった。
周囲では、
生徒たちがさっきの“名場面”について騒いでいる。
「見た?」
「完全に運命だったよね!」
「きゃー!」
本人の意思など、
まるで関係ない。
ミレイユの肩が小さく震える。
レオノーラはその様子を見て、
静かに近づいた。
「……大丈夫ですの?」
すると。
ミレイユは、
少し困ったみたいに笑った。
「ごめんなさい……」
謝る声が、
あまりにも自然で。
レオノーラは逆に言葉を失う。
なぜこの状況で、
この子が謝るのか。
「わたし、
また変なことに……」
「貴女のせいではありませんわ」
即座に否定する。
するとミレイユは、
少しだけ目を見開いた。
まるで。
その言葉を、
初めて言われたみたいに。
しばらく沈黙。
やがて。
ミレイユはぽつりと呟いた。
「わたし、
普通に友達を作りたかっただけなのに……」
その声は、
とても小さかった。
夕風に消えそうなくらい。
「みんなとお話して」
「一緒にお昼を食べて」
「笑ったりしたかっただけなのに」
一拍。
「気づいたら、
全部“恋愛”になってて……」
レオノーラは黙る。
ミレイユは続けた。
「男の子と話すと、
周りが騒ぐんです」
「少し仲良くすると、
すぐ噂になって」
「転びそうになるだけで、
さっきみたいになって……」
彼女は自分の手を見つめる。
「わたし、
別にそんなつもりじゃないのに」
苦しそうだった。
本当に。
今までレオノーラは、
ミレイユを“ヒロイン”として見ていた。
世界に愛され。
奇跡を起こし。
攻略対象たちを惹きつける存在。
だが違った。
この少女もまた。
世界に振り回されている。
むしろ一番。
周囲は勝手に盛り上がる。
勝手に恋愛扱いする。
勝手に期待する。
そして。
“ヒロインらしさ”
を押しつける。
ミレイユ自身の意思なんて、
誰も見ていない。
レオノーラは、
静かに目を伏せた。
胸の奥に、
妙な痛みがあった。
初めてだった。
この少女を、
“攻略対象を奪う存在”
ではなく。
一人の被害者として見たのは。




