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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン5 「世界の優先順位」

拍手は、

 しばらく続いたあと、

 何事もなかったみたいに消えた。


 生徒たちは散っていく。


 授業へ戻る者。


 雑談を始める者。


 皆、

 さっきまで自分たちが何をしていたのか、

 本気で気にしていない。


 それが余計に不気味だった。


 中庭には、

 夕風だけが残る。


 アルベルト・ルクレール

 と

 ミレイユ・フェルナン

 も、

 居心地悪そうに立ち尽くしていた。


 レオノーラは測定器を下ろす。


 まだ針が震えている。


 まるで世界そのものが、

 興奮の余韻を残しているみたいだった。


 その横で。


 セシル・アークライト

 が静かに言った。


「この世界、

 因果より演出を優先してる」


 レオノーラはゆっくり顔を上げる。


 セシルは、

 夕焼け空を見ていた。


「都合よく夕日」


「都合よく転倒」


「都合よく二人きり」


「都合よく奇跡」


 淡々と。


 事実を読み上げるみたいに。


「現実なら、

 もっとノイズが入る」


「ノイズ……?」


「渋滞。

 雑音。

 関係ない会話。

 空気を読まない奴。

 急な腹痛。

 タイミングのズレ」


 一拍。


「現実ってのは、

 普通もっと無駄だ」


 レオノーラは黙る。


 理解してしまったから。


 確かに。


 この世界では、

 “邪魔”が発生しない。


 恋愛イベントが起きる時だけ、

 不自然なほど綺麗に状況が整う。


 人が消える。


 風が吹く。


 夕日が差す。


 奇跡が起きる。


 まるで。


 “その場面を成立させるために”

 世界そのものが協力しているみたいに。


 セシルが続ける。


「つまり世界自体が、

 “シーン成立”を補助してる」


 その瞬間。


 レオノーラの脳裏に、

 前世の記憶が蘇った。


 乙女ゲーム。


 選択肢。


 シナリオ。


 フラグ。


 イベントCG。


 好感度。


 攻略ルート。


 全部。


 全部、

 今までの現象と一致していた。


 転倒イベント。


 夕焼けイベント。


 舞踏会イベント。


 壁ドンイベント。


 奇跡イベント。


 全部、

 “盛り上がる演出”として最適化されている。


 そして。


 そのためなら。


 建物も壊れる。


 予算も消える。


 人間の都合も踏み潰される。


 レオノーラはゆっくり息を吐いた。


「……本当に」


 声が掠れる。


「物語ですのね」


 セシルは笑わなかった。


 いつもの皮肉もない。


 ただ静かに。


「しかもかなり雑な脚本だ」


 そう言った。

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