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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン4 「観客」

拍手は、

 まだ続いていた。


 パチ。


 パチパチ。


 規則的で。


 揃いすぎていて。


 どこか機械みたいだった。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 はゆっくり周囲を見る。


 生徒たちが笑っている。


 頬を染め。


 うっとりして。


 感動した顔で、

 アルベルト・ルクレール

 と

 ミレイユ・フェルナン

 を見つめている。


「素敵……」


「まるで運命……」


「きゃー……!」


 だが。


 レオノーラは気づいてしまった。


 おかしい。


 本当に。


 おかしい。


 さっきまで。


 急いでいた生徒がいた。


 授業へ向かって走っていた。


 書類を抱えた教師もいた。


 荷物を運んでいた使用人もいた。


 なのに。


 全員、

 止まっている。


 拍手している。


 ただ、

 “そういう場面だから”

 という理由だけで。


 不自然だった。


 感情が薄い。


 まるで。


 誰かに

 「ここは感動するシーンです」

 と指示されたみたいに。


 レオノーラは、

 一人の女子生徒を見る。


 彼女は笑っていた。


 だがその目が、

 妙に空虚だった。


 別の男子生徒。


 拍手している。


 しかし表情が、

 一瞬だけ止まる。


 糸で操られている人形みたいに。


 ぞわり。


 背筋が冷える。


 風が吹く。


 花弁が舞う。


 夕焼けが二人を照らす。


 完璧な光景。


 だからこそ。


 怖かった。


 美しすぎる。


 出来すぎている。


 現実じゃない。


 セシル・アークライト

 が静かに呟く。


「見えてきたな」


 レオノーラは答えない。


 ただ。


 周囲の人間たちを見る。


 笑顔。


 拍手。


 感動。


 その全てが、

 まるで“演出”だった。


 空気が。


 場面が。


 世界そのものが。


 人間の意思を押し流して、

 “イベント”を完成させようとしている。


 その事実を理解した瞬間。


 初めて。


 レオノーラは、

 本物の恐怖を感じた。


 静かに。


 震える声で呟く。


「……気持ちが悪いですわね」

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