シーン3 「決定的瞬間」
中庭。
夕焼け。
花弁。
風。
既に空間は、
十分すぎるほど“それっぽかった”。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は測定器を睨む。
数値はまだ上昇している。
異常。
明らかに異常だった。
一方。
アルベルト・ルクレール
は相変わらず楽しそうである。
「なるほど!
つまり俺たちは今、
世界の謎を解き明かしているんだな!」
「半分くらい貴方が原因ですわ」
「ははは!」
反省が薄い。
その隣で、
ミレイユ・フェルナン
は困り切っていた。
「あ、あの……
わたし帰った方が……」
その時。
コツ。
靴先が石畳の段差へ引っかかった。
「あっ」
本当に、
ただの転倒だった。
少なくとも。
普通の世界なら。
だが。
アルベルトが反射的に手を伸ばす。
ミレイユの身体を支える。
二人の距離が近づく。
その瞬間。
世界が、
反応した。
ゴォッ――――。
空気が震える。
「っ!?」
レオノーラが目を見開く。
夕日が爆発的に赤く染まる。
さっきまで普通だった空が、
一瞬で“名場面”みたいな色彩へ変わった。
さらに。
バサバサバサッ!!
鳥の群れ。
どこから来たのか分からない。
大量。
意味不明。
風が吹き抜ける。
不自然なほど、
完璧なタイミングで。
花壇の薔薇が舞い上がる。
花吹雪。
しかも。
空中へ光粒子まで発生した。
キラキラしている。
誰も発光魔法など使っていない。
「なっ……」
レオノーラの測定器が悲鳴を上げる。
ピィィィィィィッ!!
数値急上昇。
空間魔力、
危険域。
だが異常はそれだけではなかった。
周囲を歩いていた生徒たちが。
止まる。
一人。
また一人。
皆、
二人を見る。
そして。
なぜか。
拍手。
パチ。
パチパチ。
パチパチパチパチ――――。
レオノーラは凍りつく。
意味が分からない。
別に告白していない。
何も達成していない。
ただ転びそうになっただけ。
なのに。
空気が、
完全に
“感動シーン”
になっていた。
生徒たちは笑っている。
うっとりしている。
涙ぐんでいる者までいる。
誰も説明できない。
けれど皆、
“今は拍手する場面だ”
と理解している。
空気が、
そう命令していた。
気味が悪かった。
まるで。
世界全体が、
見えない脚本に従って動いているみたいだった。




