シーン2 「実験」
「再現するか試そう」
旧図書塔の静寂を破ったのは、
セシル・アークライト
だった。
最悪の提案だった。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は即座に眉を寄せる。
「貴方、たまに研究者として倫理観が終わっておりますわね」
「たまに?」
「常時でしたわ」
セシルは気にした様子もなく、
机へ地図を広げた。
「条件を検証する」
「感情高揚」
「演出」
「視線集中」
「どこまでが引き金か知りたい」
正論だった。
嫌なだけで。
数十分後。
場所は中庭。
放課後。
夕焼け。
既に条件が嫌だった。
そして。
巻き込まれた被験者がこちら。
アルベルト・ルクレール
と。
ミレイユ・フェルナン。
完全に人選が終わっている。
「実験?」
アルベルトは不思議そうだった。
「面白そうだな!」
軽い。
一方ミレイユは不安げである。
「だ、大丈夫なんでしょうか……」
「たぶん」
セシルが答えた。
「“たぶん”!?」
ミレイユが青ざめる。
レオノーラは頭痛を感じながら、
魔力測定器を構えた。
「まず普通に会話してくださいまし」
「普通?」
「普通です」
アルベルトとミレイユが向かい合う。
「今日はいい天気だな!」
「は、はい……」
沈黙。
風なし。
花なし。
魔力反応なし。
測定器も静かだった。
レオノーラは数値を確認する。
「正常値ですわね」
セシルが頷く。
「次」
嫌な声だった。
彼は指を鳴らした。
瞬間。
空が赤く染まる。
「は?」
夕焼け魔法。
しかも無駄に綺麗。
さらに。
ふわりと風が吹く。
花壇の薔薇が舞う。
花弁散布。
演出過剰。
完全にイベント空間だった。
その瞬間。
ピィィィィィッ!!
レオノーラの測定器が絶叫した。
「なっ……!?」
数値急上昇。
空間魔力が一気に膨れ上がる。
風が強まる。
夕焼けが濃くなる。
どこからともなく鳥まで飛んできた。
「何で鳥まで来ますの!?」
「知らない」
セシル即答。
だが彼の目は真剣だった。
測定器の針が震えている。
通常の三倍。
五倍。
まだ上がる。
しかも。
アルベルトとミレイユは、
別に特別なことをしていない。
ただ向かい合っているだけ。
なのに。
世界が勝手に、
“盛り上げ”始めている。
レオノーラはゆっくり理解した。
「……演出ですわ」
低い声。
「感情ではなく」
「“恋愛っぽい空気”そのものに、
運命律が反応しております」
沈黙。
夕風が吹く。
花弁が舞う。
綺麗だった。
綺麗すぎた。
だから余計に、
気味が悪かった。




