ラスト 「舞踏会は災害指定されました」
翌朝。
王立アストレア学園は、
奇妙な静けさに包まれていた。
昨夜の惨状が嘘みたいに、
空は青い。
鳥も鳴いている。
だが。
校舎の一部は崩れていた。
噴水は半壊。
中庭には焦げ跡。
修復班は徹夜明け。
全然平和ではない。
そんな中。
学園新聞の号外が配られていた。
生徒たちが歓声を上げる。
「見ました!?」
「やっぱり奇跡だったのね!」
「ミレイユ様すごい……!」
紙面中央には、
巨大な見出し。
『愛が起こした奇跡!』
その下。
昨夜、
涙を流す
ミレイユ・フェルナン
の挿絵。
背景キラキラ。
完全に英雄扱いだった。
だが。
紙面端。
本当に端っこ。
申し訳程度の小記事。
『王都東部、
大規模魔力停電発生』
扱いが軽い。
軽すぎる。
新聞を読んでいた
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
静かに紙を畳んだ。
真顔だった。
「隠しきれておりませんわよ」
当然である。
都市インフラが止まったのだ。
隠せる規模ではない。
近くでは、
老用務員
トーマ
が疲れ切った顔で花弁を掃除している。
「今年は派手でしたなぁ……」
「比較対象がおかしいんですの」
さらにその奥。
修復班主任
バルド
が崩れた壁を見上げていた。
「舞踏会系は久々のレベル4だな」
「災害分類が存在するんですの?」
「あります」
即答だった。
もう嫌だった。
その時。
後ろから声。
「世界規模になってきたな」
振り返るまでもない。
セシル・アークライト
だった。
今日も気配がない。
今日も勝手にいる。
レオノーラは深いため息を吐く。
「笑い事ではありませんわ」
「笑ってない」
珍しく。
本当に。
セシルは真顔だった。
彼は窓の外を見る。
王都。
昨夜停電した区域では、
まだ復旧作業が続いている。
「運命律の規模が拡大してる」
低い声。
「学園内だけじゃ収まらない」
レオノーラも黙って外を見る。
恋愛イベント。
奇跡。
感動。
その裏で。
都市が止まり。
人が働き。
魔力が消費され。
世界が軋んでいる。
それでも。
皆はまだ、
“ロマンチックだった”
で済ませている。
レオノーラは静かに目を閉じた。
そして。
小さく呟く。
「この世界……」
一拍。
「どこまで“恋愛イベント”を優先しますの……?」




