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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン3 「災害対策本部」

舞踏会開催まで、残り五日。


 王立アストレア学園の一角で、

 異様な空気を放つ教室が存在していた。


 入口。


 黒板。


 そこへ大きく貼られた紙。


『舞踏会災害対策本部』


 字面が終わっている。


 通りすがりの生徒たちがざわつく。


「災害扱いされてる……」


「いやでも去年、噴水爆発したし……」


「今年は流星群あるらしいぞ」


「もう駄目では?」


 誰も否定できない。


 その教室内では、

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 が地図を広げていた。


 完全に司令官である。


「こちらが避難経路ですわ」


 学園全体地図へ、

 赤い線が引かれている。


「舞踏会会場から最短で外へ出られるよう、

導線を確保してくださいまし」


「了解でさぁ……」


 返事をしたのは、

 老用務員

 トーマ

 だった。


 既に諦めの境地へ達している顔である。


 その横では、

 バルド

 が校舎見取り図を睨んでいた。


「ここ補強しとくか……」


「どちらですの?」


「全部だな」


 規模が大きい。


 さらに教室後方。


 クラリス・エヴァレット

 が机へ突っ伏している。


 周囲には請求書。


 見積書。


 予算書。


 紙。


 紙。


 紙。


 完全に書類地獄だった。


「クラリスさん、生きてまして?」


「数字が増えますぅ……」


 泣き声みたいな返事だった。


 一方。


 窓際には、

 エマ・ローレンス

 がいる。


 なぜか取材メモを取っていた。


「舞踏会大爆発特集、

絶対売れますね」


「縁起でもありませんわ」


「でも去年より規模大きいですし」


 否定できない。


 そして。


 教室の隅。


 いつの間にか、

 セシル・アークライト

 がいた。


 気配ゼロ。


 椅子へ座って紅茶飲んでる。


 なぜいるのか誰も知らない。


 レオノーラがじっと見る。


「貴方、何をしてらっしゃるの」


「見学」


「帰ってくださいまし」


「面白そうだから嫌だ」


 最低だった。


 だが誰も追い出せない。


 知識面で普通に頼りになるからである。


 レオノーラは気を取り直し、

 黒板へ項目を書き始めた。


【避難経路確保】


【魔力過負荷監視】


【救護班配置】


【修復班待機】


【非常用魔力遮断準備】


 完全に災害対策会議だった。


 その時。


 レオノーラはふと振り返る。


「あと噴水ですが」


 全員が嫌な顔をした。


「停止してくださいまし」


 沈黙。


 数秒後。


 クラリスが震えながら答える。


「却下されました……」


「なぜですの?」


「“ロマンがない”そうです……」


 レオノーラ、真顔。


「命はありますの?」


 静寂。


 トーマが遠い目をした。


「毎年その問いが出るんですがねぇ……」


 誰も答えを持っていなかった。

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