シーン2 「王子、本気を出す」
王都西区。
石造りの倉庫群が並ぶ一角に、
異様な活気が生まれていた。
荷車が途切れない。
扉が開きっぱなしの倉庫では、
木箱が次々と運び込まれ、
そして運び出されている。
中身は明らかに一般流通品ではない。
鉄材。
魔導炉部品。
強化刃材。
保存燃料。
それらが、
まるで流れ作業のように移動していた。
レティシアは倉庫帳簿をめくる。
その横で、
カイルが別の資料を突き合わせていた。
主任は商会一覧を並べている。
三人の間に、
会話は少ない。
だが情報だけが積み上がっていく。
最初に異常が見えたのは、
一つの商会だった。
武器商会・西区連合。
在庫量が、
市場変動前から異常に多い。
さらに追うと、
別の商会でも同じ傾向。
そして共通点があった。
輸送契約の先取り。
鉱石市場の買い占め。
保存食の長期固定契約。
軍需工房への先行投資。
どれも、
北方衝突“以前”に完了している。
カイルが眉をひそめる。
「……戦争を予測してた?」
レティシアは帳簿から目を離さないまま答えた。
「違う」
一拍。
ページをめくる音だけが響く。
「戦争が起きた時の利益構造を、
最初から持ってる」
室内の空気が一瞬止まる。
カイルはレティシアを見る。
「最初から?」
主任が低く言う。
「つまり……偶然じゃない」
レティシアは頷かない。
だが否定もしない。
倉庫の外では、
また荷車が通る。
軍需品を積んだ列だ。
その動きは、
あまりに滑らかだった。
まるで、
最初から“そこへ流れるよう設計されていた”かのように。
レティシアは静かに帳簿を閉じる。
そして言う。
「この商会は、
戦争を待っていたんじゃない」
視線を上げる。
「戦争が起きる前提で、
動いている」
カイルが小さく息を吐く。
「……質が違うな」
それは、
敵意でも予測でもない。
“構造”。
戦争が起きることを前提に、
利益と物流と契約が編成されている。
戦争そのものが、
既に経済の一部だった。




