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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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ラスト 「監査対象:世界」

 夕暮れの王立アストレア学園。

 屋上には、赤い光が落ちていた。

 本来なら。

 恋愛イベントが最も加速する危険時間帯である。

 実際、遠くの中庭では、

 誰かが告白しているらしかった。

 花弁。

 鐘。

 キラキラ。

 もう見慣れた災害兆候である。

 その屋上の端で。

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は学園を見下ろしていた。

 隣には、

 セシル・アークライト

 がいる。

 珍しく静かだった。

 風だけが吹いている。

 レオノーラは手帳を閉じた。

 そこには今日一日で記録した、



魔力異常



感情増幅



空間歪曲



イベント発生地点



 がびっしり書き込まれている。

 もはや学園調査ではない。

 世界解析だった。

 レオノーラは静かに呟く。

「もし」

 一拍。

「世界そのものが、恋愛イベントを強制しているなら」

 風が吹く。

 赤い空。

 夕焼け。

 完璧すぎるタイミングだった。

 セシルが鼻で笑う。

「ほら」

「何ですの」

「今の」

 彼は空を指差した。

「会話に合わせて夕焼け強くなった」

 最悪だった。

 本当に空が演出へ合わせてきている。

 レオノーラはこめかみを押さえた。

「世界に空気を読まれるの、だいぶ不愉快ですわね……」

「同感」

 セシルはフェンスへ寄りかかったまま続ける。

「でももし仮説が正しいなら」

 一拍。

「君の敵は、王子でもヒロインでもない」

 レオノーラが視線を向ける。

 セシルの表情は、

 いつもの皮肉げな笑みではなかった。

 静かで。

 冷静で。

 研究者の目だった。

 そして彼は言う。

「“シナリオ”だ」

 その瞬間。

 ドゴォォォン!!

 遠くで爆発。

 学園のどこかで、

 またイベントが発生したらしい。

 しかし今回は。

 レオノーラは爆発音を見なかった。

 代わりに。

 空間を見た。

 爆発と同時に、

 空気が波打つ。

 魔力が流れる。

 学園全体へ、

 目に見えない脈動が走る。

 まるで世界そのものが、

 “盛り上がり”に反応しているみたいに。

 レオノーラの瞳が細くなる。

 今までは、

 事故だと思っていた。

 偶然だと思っていた。

 だが違う。

 これは。

 世界規模の現象。

 彼女は静かに呟く。

「……監査対象」

 一拍。

「世界規模ですの?」

 夕焼けの空は、

 答える代わりにまた少しだけ赤くなった。

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