シーン6 「運命律仮説」
遠くの爆発音が、ゆっくり消えていく。
たぶんまた誰かが告白したのだろう。
あるいは決闘。
もしくは両方。
この学園では十分あり得た。
中庭噴水の前。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は測定器を見つめていた。
針がまだ震えている。
感情の高まり。
イベント発生。
それに呼応するように、
空間魔力が増幅している。
偶然ではない。
もう確信できる。
レオノーラは静かに口を開いた。
「この世界には」
一拍。
「“恋愛成立を優先する力”が存在しておりますわ」
セシル・アークライト
は否定しなかった。
代わりに目を細める。
「例えば?」
レオノーラは整理するように言葉を並べる。
「感情を増幅」
測定器を示す。
「演出を発生」
噴水がキラッと光る。
最悪のタイミングだった。
「偶然を操作」
遠くで女子生徒が転ぶ。
しかも攻略対象の腕へ綺麗に収まった。
「周囲を巻き込む」
その瞬間、
近くの生徒たちがざわめき始める。
「きゃー!」
「運命感じる!」
感じなくていい。
レオノーラはこめかみを押さえた。
「……ほぼシステムですわね」
「だな」
セシルはあっさり頷いた。
そして少し考える。
「名前をつけるか」
「名前?」
「研究するなら必要だろ」
確かにそうだった。
名前があるだけで、
曖昧な現象は“観測対象”になる。
セシルは空を見上げる。
花弁が舞っている。
理由は不明。
たぶん恋愛。
「運命を強制する法則」
一拍。
「“運命律”でどうだ」
レオノーラはその単語を反芻する。
「運命律……」
妙にしっくりきた。
まるで最初から、
この世界に存在していた名称みたいに。
その瞬間。
レオノーラの背筋へ寒気が走る。
もし。
本当に。
この“運命律”が世界規模で存在しているなら。
今までの現象すべて説明できる。
偶然の出会い。
不自然な演出。
強制される盛り上がり。
そして。
攻略対象とヒロインを、
無理やり“イベント”へ押し込む世界。
レオノーラはゆっくり顔を上げた。
空。
風。
花弁。
キラキラ。
今まで“乙女ゲームっぽい背景”だと思っていたものが。
急に別の意味を持ち始める。
これは演出ではない。
世界の仕様だ。
つまり。
この世界そのものが。
乙女ゲーム構造。
レオノーラは小さく呟く。
「……笑えませんわね」
セシルが肩を竦めた。
「今さらだろ」
それもそうだった。




