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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン5 「世界が雑」

「……偶然にしては、世界が雑すぎるな」


 セシル・アークライト

 は静かにそう言った。


 軽い口調ではなかった。


 冗談でもない。


 研究者が、

 異常を見つけた時の声だった。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は黙る。


 その意味を理解したから。


 セシルは資料をめくりながら続けた。


「都合よく二人きりになる」


 ページを一枚。


「都合よく爆発する」


 さらに一枚。


「都合よく夕焼けになる」


「昼間でも」


「そう。昼間でも」


 真顔で返ってくるのが嫌だった。


「あと都合よく転ぶ」


「それは頻発しておりますわね……」


 ミレイユなど、

 週三回は転倒している。


 しかも毎回、

 誰かの腕の中へ着地する。


 物理法則が仕事を放棄していた。


 セシルは資料を閉じた。


「全部同じだ」


「同じ?」


「“イベント成立”を優先してる」


 レオノーラの背筋に、

 冷たいものが走る。


 今まで感じていた違和感。


 崩落。


 爆発。


 偶然。


 演出。


 それら全部へ、

 一本の線が通る。


 セシルは噴水の水面を見る。


「現実なら」


 一拍。


「もっと無駄がある」


 その言葉に、

 レオノーラは目を細めた。


 無駄。


 確かにそうだった。


 普通なら。


 告白前に誰か邪魔が入る。


 壁ドンしようとして失敗する。


 タイミングが噛み合わない。


 空気が壊れる。


 そういう“ズレ”がある。


 だがこの世界は違う。


 どれだけ無茶でも、

 必ずイベントが成立する。


 むしろ。


 成立のために、

 世界側が調整しているみたいに。


 レオノーラは小さく呟く。


「……物語みたいに?」


 セシルの視線が彼女へ向く。


 静かな目。


 そして。


「まるで誰かが」


 一拍。


「“展開”を書いてるみたいだ」


 風が吹いた。


 噴水の水面が揺れる。


 その瞬間。


 遠くでまた爆発音。


 ドゴォォォン!!


 二人とも振り返らない。


 もう慣れていた。


 代わりに、

 レオノーラは静かに測定器を見る。


 爆発と同時に、

 数値が跳ね上がっていた。


 まるで。


 世界そのものが、

 “盛り上がり”に反応しているみたいに。

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