シーン4 「知性バトル」
中庭噴水の前。
水音だけが静かに響いている。
その傍らで、
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
と
セシル・アークライト
は向かい合っていた。
妙な光景だった。
一方は悪役令嬢。
一方は攻略対象。
本来なら、
恋愛イベントで火花を散らす関係性である。
だが実際には。
空間魔力の歪曲について議論していた。
色気がない。
しかし。
会話だけは異様に噛み合っていた。
説明が少なくて済む。
理解が速い。
互いの思考速度へ、
自然に合わせられる。
この作品で初めてだった。
“同じ速度で話せる相手”。
セシルは噴水の縁へ腰掛けたまま、
レオノーラを眺める。
「君」
一拍。
「悪役令嬢向いてないな」
レオノーラは即答した。
「貴方は攻略対象向いておりませんわ」
「知ってる」
即答だった。
迷いゼロ。
レオノーラは少しだけ眉をひそめる。
「否定なさいませんの?」
「面倒」
「便利な言葉ですわね、それ」
「君も使えば?」
「誇りが許しませんわ」
「へぇ」
セシルは少し笑った。
その笑い方が、
いちいち腹立たしい。
レオノーラは話を戻すため、
地図と資料を広げる。
「こちらをご覧くださいまし」
セシルが覗き込む。
事件発生地点。
魔力波形。
感情変動値。
細かく整理された記録。
完全に研究資料だった。
レオノーラは指で地点を示す。
「イベント発生地点だけ、
空間魔力が異常増幅しております」
セシルの目が細くなる。
「ふむ」
「しかも感情変動に反応して数値が変化」
「恋愛感情で増幅」
「ええ」
レオノーラはページをめくる。
「さらに注目すべきは、
現象発生の再現率ですわ」
「再現率?」
「壁ドンで崩落」
「うん」
「告白で爆発」
「うん」
「二人きりで夕焼け」
「雑だな」
そこだけ即答だった。
レオノーラは頷く。
「ええ。雑ですの」
セシルが資料を受け取り、
数値を流し読む。
そして小さく呟いた。
「感情共鳴型か」
レオノーラの視線が上がる。
早い。
理解が早い。
「おそらく」
「しかも周囲の視線や期待でも増幅してるな」
「わたくしもそう考えております」
「観客型イベント構造」
「最悪ですわ」
「知ってる」
また即答だった。
会話が速すぎる。
まるで長年共同研究していたみたいに、
分析が噛み合う。
だが。
その瞬間だった。
セシルの表情が変わる。
今までの気だるげな笑みが消える。
真顔。
静かな目。
空気が変わった。
レオノーラは instinctively 背筋を伸ばす。
セシルは資料を見たまま、
低く呟いた。
「……これ」
一拍。
「偶然にしては、世界が雑すぎるな」




